第9回 そんな時代もあったね、と。
上手く行けば行くほど逃げ出したくなった。
好きになればなるほど、その関係を壊したくなった。
その関係を壊す時愉悦すら覚えた。
そうした後で「またやった」と自分を呪った。
こんな歪な魂は救われるべきではない、と己を嘲笑いよりいっそう退廃的に振る舞った。
「斬った張ったの戦場に居て後ろから斬られて文句言うやつのほうが頭おかしいんじゃないの?」
そう嘯いていた。
そんな「逸脱」をする自分が嫌いだったから自傷していた。
クレジットカードは3枚くらい焦がしてる。
消費者金融に手を出した事もある。
未来を考えるのが怖かったから「今」しか考えられなかった。
熱狂だけが全てだった。
熱狂が終わると死にたくなった。
死ぬのは苦しい事が解ったので仕方なく自分を壊しながら生きていた。
どうしてこんな自分になったか解らなかった。
ただ生きるのが辛かった。
ただ当たり前に「幸せだ」と言うやつの足元を崩してやるのがたまらなく嬉しかった。
「いつか●ろしてくれればいいのに。」
半ば本気で思っていた。
その一方で美しい物語が好きだった。
さまざまな事を忘れさせて思索の深遠に誘ってくれる書物を求めていた。
そんなだからいつも「部外者」だった。
遠くから優しげな風景を眺めて「俺もあそこに行ければいいのに」と思っていた。
でもそんな「優しげな風景」が壊れるのを見てクツクツと嗤うことも楽しかった。
高い場所は飛び降りてしまいそうだから嫌いだった。
ただ生きているだけなのに地獄だった。
誰もそれを解ってなどくれなかった。
「誰でもそんな事があるよ」と一般化されるのは腹が立った。
だからそんな奴には目の前で自傷してやった。
誰でもあるんだろ?やってみろよって。
俺はあなたの地獄を知らない。
知っている、共感出来るなどと本当は言いたくない。
あなたがそんなになってまで生きている理由に安易に共感なぞしたくない。
その孤高を汚したくない。
信じてくれなくてもいいけど敬意すら持っている。
だけどいくつか言える事はあって。
止まない雨の中でも明けない夜の中でも生きていられる。
その場所でいつか憩う事が出来るようになる。
たくさん失って来たかも知れないけど、それでも手放す事が出来ないキラキラしたものはあって。
それは多分あなたの中で待っている、という事。
あなたが1秒でも笑ってくれる事を望んでいる人間は俺も含めて案外少なくない事。
それぞれの力量で受け止めようと思ってる人は必ずいる事。
あなたの全て受け止められる人間なんてこの世にはいないけど、ちゃんと見ようとしてくれる人もいるし、その胸の真ん中の穴の開いたような空虚感は空虚感のまんまあなたを強くもしてくれる事。
もし興味が湧いたら聞いてくれればいいと思います。
非才の身なれど一緒に悩む事くらいは出来ると思うから。