イシュタルの塔10 虹色の闇
俺の中には「二つの世界」があった。
思えば俺の境界性パーソナリティ障害は母を乞い求め母を憎み、己を律しようとする一方でコントロール不全になり、生きる事を渇望しながら希死念慮に悩まされ、科学を愛しながら見えない世界に思いを馳せ、何かを救いたいと願う一方で全てを破壊したいという欲望に駆られていた。
矛盾。
この矛盾がどこから来たのか、どこへ向かうべきか解らないままただのたうち回り「今」を生きるしかなかった。
この「女神の塔」の探索はそうした俺の「世界」がどのようにあるべきか、何を見つけたかというイマジネーションだった。
「二つの世界」は形を変え今でも俺の中で息づいている。
それが「病理」であるかどうかは俺が決める。
主体性を失ったからこそ「主体的に生きる」ことを意識出来るようになった。
今は「生きづらかった」事に感謝すらしている。
目の前に闇がある。
色のないようなあるような、目を瞑った時に見える暗闇とさまざまな色のような。
それは色であり渦であり闇だった。
虐げられた分その報復をせねばならないと感じていたサイコパス人格のもう一方の構成要素。
狂気。
自分にも他人にも過去にも現在にも意味を感じない、既成の価値観など維持するに及ばない無駄なものだと断ずる根源。
矛盾と狂気の坩堝。
俺の「物語」の終わりはこの中にあるのだと感じていた。
渦。
全てを包みこみ慈愛をもたらす一方で飲み込み同一化する「母性元型」
「剣」を手放した俺に残る最後の「病理」
矛盾とスプリット(分裂)の源。
何が待ち受けているかも解っていた。
それでも進まなければ、この「闇」の中に行かねば俺は「終わらない」
ならばすることは一つだろう。
最初に手足が溶けたように感じた。
俺の意識する「体」はどんどん虹色の中に溶け出していく。
意識が沈み込んでいく。
離人症を発症する感覚だ。
さまざまな想いや思い出が蘇る。
懐かしく悲しく嬉しい。
これは抱擁なのだ。
受け入れ、感応するためにあるいは「個」は邪魔になる。
狂気と矛盾は慈愛でもあるのだろう。
恐怖はない。
ただ。
「帰れる」「もう苦しまずに済む」という安堵感だけがあった。
「大きな一つ」に合一するような安心感。
そうか…俺はここで消えるんだ。
こんなにも優しい場所で俺は俺を終える事が出来る。
「みんなありがとう、ごめん」
意識は混濁していった。
かつて救急車で運ばれた時のように「世界から意味が失われて」いった。
胸の中心のあたたかい何かごと結合を解かれていく。
こんな状態に以前なった時は恐怖しかなかった。
だけどこんなに優しい場所で俺は失われる事が出来る。
何かの恩寵だと感じた。
その刹那腕を掴まれた気がした。
「何か」が俺を「虹色の闇」から引き上げた。
世界に意味が戻り、俺は俺を急激に取り戻した。
「そっか。」
「まだダメなんだ。」
「でももう疲れた…俺はその子の中で休ませてもらうよ」
「きっと新しい意識はその子の中で生まれる」
若い頃の両親が思い浮かんだ。
赤ん坊の俺を代わる代わる抱いた彼らは笑顔だった。
俺はまた「生まれた」のだろうか。
俺の「世界」が始まったのだろうか。
ひどく安らかな気分だった。
ここが俺の「還る場所」だったんだ。
意識と身体感覚は現実に近い場所に戻った。驚くほど涙を流していた。
何かが終わったのだ、と感じた。
大きな感慨はなく「ただ一人」の俺がいた。
多分明日か明後日には加筆修正が加わって違うものになっていると思うんですけど心象風景にして「アクティブイマジネーション」である「女神の塔の探索」は終わりました。
いやーあんときは「あれ?俺ひょっとして死ぬ?」みたいな気がしたんだけど、なんかそれでもいいというか、不思議に恐怖はなかったというか。
あれなんだったんだろう。
ところでどこが塔なんだよ、と思うかも知れませんが書いてないんすけど最初に塔の門を開けるイマジネーションがあったんです。
だから塔。
いいの所詮自己満足だから。
作品性とかないし。
ハショりまくったダイジェスト版だし。
「想像だけで精神疾患が治ったら世話ねーわ」と思うかもしんないんですけどね。
一応マインドフルネスっぽい深い没入感とか呼吸法とかを駆使して身体感覚にも気を配った「瞑想」なわけです。
瞑想による「直感」から来るイメージは何らかの神経の可塑を促す効果がある…ように思います。
上手く言えないなーんーいい映画とか見たあとの安心感と脱力感、みたいな感じ。
このイマジネーションをした後に治療終結のカウンセリングに行き
こんなこと
を書いている。
今。
「生きづらさ」は全くなく、希死念慮も焦燥感も空虚さも皆無だ。
いや、あるかも知れんけど「抱えられる」自信があるし、自分でどうにか出来る自信もある。
まだ目指す場所も見たい景色もあるから相変わらず苦悩してはいるけど、それは同時に楽しい作業だったりもします。
ダラダラ書いてて終わんないので一旦これで〆