好きか否か

「いつも昼に弁当を持ってきてますけど、料理が好きなんですか?」
会社の昼休みの時に事務の方から私の弁当箱を見てそう言った。
「いや〜。そうなんですよねぇ〜。自分で作ったものが美味しいと嬉しいじゃないですか!」
とその時はちょっと戯けた感じで答えた。

事務の方には申し訳ないけど、あれは嘘だ。
料理が好きかどうかなんて正直よく分かっていない。
美味しいものが作れたら嬉しいのは本当だけど、それは料理を好きになる動機にはなれなかった。
ただ理由があるから料理をして、弁当も作っているに過ぎない。

理由とは
①節約のために外食を控えるため。
②食生活を飽きさせないため。
③私生活でも体を動かすため。

①はその言葉通りに節約のためだ。
料理をし始めたのは今年入ってからなのでまだ1年も経っていないけど、それまではほぼ毎日外食をしていた。
そのため手取りの1/3はその外食費に充てられていた。その時住んでいた社員寮は台所が共同スペースになっていたため、料理をしていると社員と出くわすことになる。正直勤務時間以外は会社の人とは会いたくなかったので、自然の流れで外食・コンビニ弁当が食生活の主流となっていた。
今年に入ってから寮からアパートに引っ越したのと家計の見直しを図ったら必然的に食費を削る=自炊する、という形になった。

②は外食ばかりしてると安く、かつ好みの店にばかり足が向いてしまい、その味に飽きてくる。たまには違う店に赴いてもそこで期待はずれだった場合のがっかり感が半端ない。
それに私自身頭の固さ故か例えば自分が美味しいと思えるラーメンはこんな味付け!っていうのが決まっていて、そこから離れた味だった場合に「これはこれで美味いな」なんて口では言いながら、内心ちょっとがっかりしてる自分がいる。
わがままここに極まれり。この事を口に出したら「じゃぁ自分で作れよ」と言われる事必至だ。
そんなわがままな気分の手綱を引きながら、毎日何作るか考えるのはそこそこ大変だが、自分で作る料理にまだ飽きていないのは上手く手懐ける事ができているからかもしれない。

③は、自炊するために台所に向かうと料理前後で少しコンロ周りを掃除したり、その流れで部屋の中を掃除、洗濯したりと、料理以外の家事もする気分になれる。
一つ一つは面倒臭い作業だが、それらが全て“ついでに”で自然とやれるのだ。
それにそれらの家事と比べたら料理は比較的作業のバラエティが多く(切る、焼くなど)、単調な作業を長時間やるという事は少ない。そのため、次の工程に進むペースが早く、何だか密度の濃い時間を過ごせた気分になり、料理を終えた後の達成感が生まれる、気がする。


最近そういった“面倒臭いけどやらざるを得ないから、何かしら動機を作って無理矢理にでも作業をやる”経験や、“作業の密度が高く、やり終えた後にちょっとした達成感を感じる”体験を自分の部屋の中で定期的にしていかないとな、と思う。
平日でも休日でも、部屋の中でボーっとしてる時間が多ければその空間は自分にとってボーっとする空間になってしまうし、逆に重い腰を上げて面倒臭い作業を部屋の中で行えば、自分にとってボーっとする以外に意味のある空間へと変わっていく。
習慣化、とはまた違った自分の行動と空間にいる意味との関係性。
行動と意味の間にはおそらく気分が入るのだろうと思う。

このように料理をする3つの理由を自分なりに分析した結果だ。
“料理を終えた後の達成感”や冒頭の“美味しい料理が出来た時の嬉しさ”はあるにはあるが、自炊する理由は上記の①と③の方が強い。

だから、事務の方に「料理が好きなんですか?」と聞かれたら「料理が好きだからやってる、というよりも料理に自分の生活を助けてもらってるからやってる感じですかね」と言った方が適切だったかもしれない。

多分理解してもらえないだろうけど。

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