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風不死岳で三度のヒグマ襲撃 入山自粛要請も惨事防げず|北海道|昭和51年

本記事は書籍『日本クマ事件簿 〜臆病で賢い山の主は、なぜ人を襲ったのか〜』(2022年・三才ブックス刊)の内容をエピソードごとにお読みいただけるように編集したものです。


はじめに

本稿では、明治から令和にいたるまで、クマによって起こされた死亡事故のうち、新聞など当時の文献によって一定の記録が残っている事件を取り上げている。

内容が内容ゆえに、文中には目を背けたくなるような凄惨な描写もある。それらは全て、事実をなるべく、ありのままに伝えるよう努めたためだ。そのことが読者にとって、クマに対する正しい知識を得ることにつながることを期待する。万一、山でクマに遭遇した際にも、冷静に対処するための一助となることを企図している。

本稿で触れる熊害ゆうがい事件は実際に起こったものばかりだが、お亡くなりになった方々に配慮し、文中では実名とは無関係のアルファベット表記とさせて頂いた。御本人、およびご遺族の方々には、謹んでお悔やみを申し上げたい。

事件データ

  • 事件発生年:1976(昭和51)年6月4日・5日・9日

  • 現場:北海道千歳市・風不死岳

  • 死者数:2人

注意喚起を促すも
山菜を採る人が被害に

6月4日、千歳市支笏湖しこつこ南岸にそびえる1,102mの風不死岳ふっぷしだけの標高約1,000m付近である9合目付近にて、仲間5人でネマガリダケを採っていた。

その中のA(56歳)が、突然背後からヒグマに襲われた。

叫び声を聞いた仲間が長さ1.5mの鉄梃かなてこを持って駆けつける。クマはAを引きずっていたものの、鉄梃を使って撃退、Aを救出した。

藪へと逃げたクマは再度向かってくる様子を見せたので、付近に停めてあったブルドーザーに乗りこみ、エンジンをかけると、轟音を恐れて藪の中へと消えていった。

Aは両手を引っかかれたものの、軽傷ですんだ。

第二の事故が起きたのは翌日午前9時半頃、風不死岳でネマガリダケ採りをしていたB(53歳)がヒグマに襲われた。

3mほどの距離でヒグマと向かい合った男性は、後ずさりして距離を取ろうとしたものの転倒。その瞬間にヒグマが足に噛みついてきた。受難を知った同行の男性とともに大声をあげると、ヒグマは姿を消したという。

そこで千歳市では4日の事故の後、猟師5人を現場に派遣し、山中の巡回を行っていた。さらに5日の事故を受け、クマの危険を訴える立て札を風不死岳の登山道周辺の15カ所に設置するとともに、広報車を走らせて山菜採りに向かう人たちに声をかけ、入山自粛を促した。

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