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猪犬と老猟師、ともに歩いて50年 〜 時代とスタイルの移り変わり

本稿は『けもの道 2017秋号』(2017年刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。

狩猟を行なうには狩猟免許の取得、猟具等の取得・所持の許可、狩猟者登録などの手続きが必要なほか、狩猟期間や猟法、狩猟できる区域や鳥獣の制限等があります。狩猟制度に関する情報については「狩猟ポータル」(環境省)等でご確認ください。


写真で振り返る犬持ち猟師の自分史

旧『けもの道』から投稿記事を送り続けてくださっている静岡県在住の久住英樹さん(73歳)。自他ともに認めるベテラン猪犬ししいぬ猟師だが、脚の不調から今夏、手術に踏み切ると聞きつけ陣中見舞いに駆けつけた。

久住英樹さんと、愛犬の「ロッキー」。奥様も溺愛する現在の主力犬。捕獲へ出陣前にポーズ

しかし、齢73歳の老猟師は、今年度猟期を見据え脚にメスを入れることを決断したのであり、まだまだ引退知らずの現役の勢子頭だった。

取材日|平成29年5月20日
文・写真|佐茂規彦

「藤姫」から始まった有色紀州犬へのこだわり

久住さんが20歳を過ぎて散弾銃を持ったころ、義兄との猪猟で使役する犬はビーグル雑、甲斐犬や和犬雑だった。

しかし当時の『狩猟界』誌で様々な猟系紀州犬が紹介されているのを読み、自身も紀州犬を求めるようになり、ほどなくして知人の獣医のツテで手に入れた犬が有色紀州犬の「藤姫」号だった。

「藤姫」は、胡麻毛・雌の紀州犬。ピンとした立ち耳・太い差し尾に加え、雌ながら四肢がしっかりした風格ある体躯が特徴的だった。

久住さんは「『フジ』は、とにかくよく鳴き込む犬だったね。鳴き込むんだけど、口を持って行かなかった(=咬みに行かなかった)。だもんで、猪を止めるには別の止め犬が必要だったんだよ」と、アルバムから大事そうに取り出した写真を眺め、懐かしむ。

「藤姫」号(通称『フジ』)。雌の有色紀州犬。久住さんの和犬作出はここから始まった

そして昭和56年のころ、「藤姫」に交配するため知人を介して手に入れたさらなる有色紀州犬が「胡麻市狼」(ごまいちろう)号だった。

「胡麻市狼」号とその直仔たち

「『ゴマイチ』は一目惚れだった」という。「にじみ出る風格や迫力」から、見に行ってすぐに気に入り、自宅に迎え入れた。

数回に渡り猟師の間を行き来し、久住さんが手に入れたころにはすでに10歳近かった「胡麻市狼」号(通称『ゴマイチ』)。実猟でも活躍していた雄の有色紀州犬

しかし先の「藤姫」との交配を期待したが、肝心の「藤姫」になかなか発情が来ない。時間ばかりが過ぎて行くことを良しとしない久住さん。「胡麻市狼」の直仔をほかに探し求めたほどの惚れ込みようだった。

時間はしばらく掛かったものの「藤姫」にも待望の発情が来た。しかし交配を無事に終えた3日後に「胡麻市狼」は胃捻転であっけなく他界することになる。喜びの絶頂から急転直下の深い悲しみを味わうことになったが、「藤姫」の胎にはしっかりと次代への血が受け継がれていた。

およそ60日後、「藤姫」は無事に「胡麻市狼」の仔を産み、その仔らと「胡麻市狼」のほかの直仔も合わせ持ち、久住さんは目を見張る精悍な有色紀州犬の犬群を手に入れることが出来た。

「胡麻市狼」号の直仔たち。左から、「藤龍(とうりゅう)」、「熊」、「蘭」、「鳴(なる)」号。それぞれ母犬の異なる兄妹犬。昭和56~57年生まれ

このころから久住さんはグループ猟を離れ、自らが思い描く「至芸両全」を見るため、この有色紀州犬たちで猪単独猟を目指し始めた。

「胡麻市狼」号は荒く咬みに行く犬である一方、「藤姫」が鳴き主体の犬だったことを初め、母犬はすべて「胡麻市狼」とはタイプの違う犬だった。そして交配が上手くいったのか、「胡麻市狼」号の直仔たちは咬み一辺倒ではなく、鳴きもあり、よく絡む犬だったという。

「今でも後悔するのはね、この『ゴマイチ』や、『藤龍(とうりゅう)』の血を残してやれなかったことだね。怪我や病気もあったけど、有色紀州にこだわり過ぎて、それで血を絶やしちゃったのかも知れないね」と久住さんは言う。

成長した「藤龍」号。久住さんの奔走と、その整った姿形から、当時の日本犬保存会において紀州犬の単独登録を獲得した

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