【ショップ探訪記】東京の隠れ家的銃砲店「VEMA」
文・写真|宮原悠
2024年春、東京都練馬区の閑静な住宅街に、ひっそりと新しい銃砲店が開業した。
現在、国内の銃砲所持者の数は昭和50年代ごろをピークに減少の一途を辿っており、それに伴い街の銃砲店の数も減少を続けている。
店を開ければ銃砲や装薬弾の購入客で賑わう時代が過ぎ、現在は保守的に細々と営業を続けている、そうした銃砲店も少なくない。そんな中、今までにないコンセプトや営業方法で市場を開拓する銃砲店が登場し始めた。今回紹介する「VEMA(ベマ)」もそのひとつだ。
VEMA のオーナー、風間氏の経歴は少し特殊だ。今から20年以上前、入社した企業がちょうど新規事業としてライフルスコープの輸出販売を始め、風間氏がそのコアメンバーとして抜擢されたことから狩猟、銃砲業界との付き合いが始まった。そして後に、光学機器の本場ドイツの営業所に駐在することとなり、現場の生の声を聞きながら研鑽を積んだという。
現在は独立し、本来得意としていた貿易の知識に狩猟用光学機器の知識が加わったことで、この度銃砲店を開業する運びとなった。そのため VEMA の一番の得意ジャンルはライフルスコープをはじめとした光学機器で、ドイツ製の光学アクセサリーも独自に輸入し、販売を手掛けている。
また風間氏は元々凝り性な性格で、ドイツに駐在していた頃から勉強のためエアライフルを所持していたため、VEMAでもエアライフルの販売に力を入れることにしたという。
実は銃砲店を開業する前から、VEMA は他にはない目の付け所で、銃砲用品の輸入販売を始めていた。
本誌(『けもの道2024秋』)でも紹介した、可変傾斜機能を持ったスコープマウント『エラタック傾斜マウント』、銃に装着した光学機器を瞬時に脱着、使用可能な『デントラーマウント』など、風間氏が実際にドイツに足を運び見つけてきた、個性のある商品だ。その他にもレンジファインダー機能を備えたドットサイト『ドラサイト』も記憶に新しい光学機器だ。
東京の隠れ家的な銃砲店
VEMA では現在、表向きには看板を出しておらず、予約制で来客対応を行っている。これはひとりひとりの顧客に丁寧に向き合う、という風間氏のこだわりだ。扉を開けて足を踏み入れると広がるのは、MAN CAVE(男の秘密基地)という表現がぴったりな、おしゃれな隠れ家的空間だ。
店内には VEMA が取扱う様々な光学機器アクセサリーやライフルスコープなどが並び、また壁際には重厚な雰囲気の工業用ミシンが所狭しと置かれている。
実はVEMAでは銃砲店を始めるのと同時に、国内光学機器メーカー、ビクセンが販売するライフルスコープのカスタマーサポートの仕事も請け負い始めた。メールでの問い合わせのほか、店内には同社のライフルスコープが数多く並んでおり、実際に手に取り確認することができる。
VEMAのエアライフル
VEMAでは銃砲店としての主力商品として、エアライフルの販売にも力を入れ始めた。取扱うエアライフルは佐賀県のあくあぐりーんが輸入代理店となる Skout Airguns 、RTI Arms 、Hatsan が中心で、これらの実機を見ることができる関東の店舗は貴重な存在だ。その中でも特に米国 Skout Airguns のエピックというエアライフルは、新しい銃砲店によく似合う、新世代のエアライフルと言えるだろう。
Skout Airguns は2022年に米国で生まれた新興エアライフルメーカーで、そのバックボーンは同国で絶大な人気を誇るペイントボールガンの有名企業だ。このエピックには、今までのエアライフルの常識から外れた、様々な技術や構造が用いられている。
全てが革新的すぎてどこから説明すべきか迷うが、まず分かりやすいのはソレイドバルブを使用した電子制御システムを搭載している点だ。この技術は狩猟用エアライフルにおいては新しい技術だが、ペイントボールガン市場においては既に十分な経験を積み、性能を実証された機構をベースにしている。
また電子制御のエアコントロール、電子トリガー以外にも、クイック式のバレル交換システムとそれに合わせたワンタッチセッティングプログラム、ニッケルテフロンコーティングを内部に施したオリジナルのカーボンブルバレルなど、全てにオリジナリティを感じる。
気になる性能は、米国ではデビューと同時に各ベンチレスト射撃競技、非常に優秀な成績を収めており、疑う余地はないだろう。
もちろん、こうした最新機構のエアライフルを扱うには専門の知識が必要だが、VEMAではメンテナンスやオーバーホール、セッティングに至るまで、日々研究を行い、万全の顧客サポートを目指している。
また取材時には HATSAN の最新エアライフル、ファクタースナイパーL のデモ機も在庫していた。今後もエアライフルの在庫は増やしていく予定だそうなので、これらに興味がある方はぜひ、連絡をしてみて欲しい。
革製品が縫える本格縫製機械
さて、風間氏が携わる別事業に、工業用ミシンをはじめとした縫製機械の販売がある。これは貿易事業の経験を活かし、銃砲店事業より以前から手がけているものだ。布を縫うためのミシンには、一般家庭で使う小型で多機能な家庭用、一般家庭での使用も視野に入れた職業用、そして主に縫製工場での使用を目的とし用途に特化した工業用がある。
風間氏が取り扱うミシンは工業用で、その中でも革をはじめとした厚手の生地を縫うことに特化したミシンを取り扱っている。これは世界の縫製業界では有名な台湾製 TAKING のミシン(日本正規総代理店)をベースに、国内での需要に合わせ台座や細かい仕様をオリジナルで受注制作し、縫製事業者向けに販売している。
主力機種は主に3つで、ひとつは総合送りミシンだ。これは厚さ13mm程度のの革まで余裕で縫えるハイパワーモデルで、針と送り歯、押さえの3点で布を送る(総合送り)ことで、縫いズレや傷を作らず、厚手の生地の縫製が行える。実際に体験させてもらったところ、厚手の革を3枚重ねているにもかかわらず、まるで薄い布生地を縫うかのようにまっすぐ滑らかに針が通ったのには驚いた。
もうひとつの八方ミシンは、縫う(送る)方向を360度自在に変更できる唯一のミシンで、主に立体縫製された靴やグローブなどを補修する際に活躍する。
最後は電動革鋤き機で、製品の用途に合わせて縫製前の革の厚みを調整したり、厚みを増やさずに革を縫い合わせる際などに用いられる。
これらの機械は国内メーカーの同性能品と比べても圧倒的に安価で、かつ修理サポートも代理業者を挟まず一件ずつ直接対応しているため、全国の縫製工場、革製品工房から評判を得ているという。
風間氏曰く、現在顧客の工房ではジビエレザーの人気が高まってきているとのことで、読者の中にこうした事業展開を考えている方がいれば、ぜひ気軽に相談をして欲しいとのことだ。
ドイツと狩猟とおいしい話
風間氏は VEMA をオープンさせる以前から、光学機器やドイツの狩猟事情などを発信する、「ドイツと狩猟とおいしい話」というブログを発信し、また他WEB媒体にも多く寄稿している。どれも確かな経験に裏付けされた情報で、深く読み入ってしまうものだ。
WEBブログでは今回紹介した光学機器、エアライフルなどの情報も随時更新、掲載しているので、皆さんもぜひチェックしてほしい。
狩猟専門誌『けもの道 2024秋号』では本稿を含む、狩猟関連情報をお読みいただけます。note版には未掲載の記事もありますので、ご興味のある方はぜひチェックしていただければと思います。