【ジビエ界の働くクルマ】移動式解体処理車・試作1号車に見るジビエにかける夢
ジビエ界待望の働くクルマが登場!
解体処理施設が抱える悩みを解決できるか!? 平成28(2016)年7月25日、長野県庁で「移動式解体処理車」の試作1号機がそのベールを脱いだ。
獲物のフレキシブルな回収と迅速な解体処理は、野生獣を食肉として利活用する上で、最も大きく、そして答えのない課題のひとつだ。ジビエ界に突如現れた働くクルマは、最適解を提示できるか!?
移動式解体処理車とは?
移動式解体処理車は、NPO法人日本ジビエ振興協議会(2017年に一般社団法人化、現在は「一般社団法人日本ジビエ振興協会」)が、長野トヨタと約3年掛かりで共同開発、2トントラックをベースにした特装車だ。
捕獲現場の近くまで移動し、内臓摘出、剥皮から枝肉にするまでの一次処理を、車内で迅速かつコンパクトに完結させることができる。
固定式の食肉処理施設と同様の品質を実現するため、徹底した衛生管理が追求されている。また、捕獲現場である山中に入って作業することを想定し、汚水もすべてタンクに溜めて持ち帰るなど、環境に配慮した仕様になっている。
メリット
「動く解体施設」のメリットは、何と言っても、可能な限り「いつでもどこでも」回収に向かい、その場で一次処理を開始できる点で、様々な有効利用が期待できる。
捕獲個体の回収エリアを拡大させることができ、既存の食肉処理施設を中心とした利活用エリアの広域展開が可能になる。
搬送手段が利活用の妨げになっている山間部や、狩猟者が高齢化している地域などで、食肉利用の実現性が向上する。
夏場の捕獲個体を衛生的に処理できる。
既存の施設との併用による利用効率の向上。
一次処理施設の代替活用など
特徴
徹底した衛生管理を実現するため、屋外洗体エリア、室内解体エリア、前室、保冷室がそれぞれ設けられている。また、作業途中に機器への接触を出来る限り避けられるよう、自動ドアの開閉や蛇口からの水の使用は手を使わずに行うことができる。
移動解体車をチェック!
基本スペック
《車両》
車長:6,457mm 車高:2,911mm 車幅:1,970mm《解体処理設備》
発電機、エアーコンプレッサー、空調設備、電解次亜塩素酸ナトリウム水生成装置、高圧蒸気滅菌器、懸吊レール、温湯器、洗浄シンク、清水・汚水タンク、冷蔵庫など
後部(洗体エリア・車外)
まず捕獲個体を回収後、後部垂直リフトに洗浄ユニットを設置し、そこで吊るした状態で洗体する。屋外洗体時は後部ハッチを閉め、解体室とは完全隔離する。洗体に使用した水は、汚水タンクに回収され、廃棄可能場所まで運搬する。
解体室
洗体終了後、床面との接触を避けるため、懸吊レールに個体を吊り上げ、解体室へと移動させ、内臓の除去および剥皮が行われる。
室内の高さは2,000mm(2m)。解体室内には、83℃の湯温器、洗浄と水洗いが出来る2槽シンク(写真内右奥)が装備されている。下部(写真内右下)には高圧蒸気滅菌器が設置され、解体用のナイフなどの徹底した滅菌をする。手洗い用の蛇口(写真内左)には非接触センサーが採用され、手で触れずに手洗いが可能。足元(写真内中央下)には前室へ通じるドアの自動開閉ボタンが設置され、膝で押すことでドアの開閉ができる。
前室
解体室と保冷室をつなぐ廊下のような前室。前後の自動ドアを交互に開閉することにより、解体室から保冷室への感染防止を図ることができる。個体は懸吊レールで移動させる。
保冷室
保冷室の温度は5℃以下に設定することができ、保冷施設や2次処理施設まで低温で個体を運搬できる。懸吊レールに吊った状態で、ホンシュウジカ約2~5頭を収容可能。
汚染水タンク
車底部に設置された汚水タンク。タンクは複数装備され、合計で560リットルの汚水を溜めることができる。汚水は固定の処理施設などで適切に廃棄する必要がある。
次亜塩素酸ナトリウム水生成装置
使用する水量を低減し、個体の汚染リスクを軽減するため、次亜塩素酸ナトリウム水生成装置を搭載し、清水500リットル搭載タンクから毎分4リットルを生成して作業に使用。
(了)
狩猟専門誌『けもの道 2016特別号』では本稿を含む、狩猟関連情報をお読みいただけます。note版には未掲載の記事もありますので、ご興味のある方はぜひチェックしていただければと思います。
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