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サケ密猟で捕食中ヒグマとはちあわせ|北海道・標津町|平成20年

本記事は書籍『日本クマ事件簿 〜臆病で賢い山の主は、なぜ人を襲ったのか〜』(2022年・三才ブックス刊)の内容をエピソードごとにお読みいただけるように編集したものです。


はじめに

本稿では、明治から令和にいたるまで、クマによって起こされた死亡事故のうち、新聞など当時の文献によって一定の記録が残っている事件を取り上げている。

内容が内容ゆえに、文中には目を背けたくなるような凄惨な描写もある。それらは全て、事実をなるべく、ありのままに伝えるよう努めたためだ。そのことが読者にとって、クマに対する正しい知識を得ることにつながることを期待する。万一、山でクマに遭遇した際にも、冷静に対処するための一助となることを企図している。

本稿で触れる熊害ゆうがい事件は実際に起こったものばかりだが、お亡くなりになった方々に配慮し、文中では実名とは無関係のアルファベット表記とさせて頂いた。御本人、およびご遺族の方々には、謹んでお悔やみを申し上げたい。

事件データ

『北海道新聞』2008(平成20)9月18日夕刊
  • 発生年:2008(平成20)年9月17日

  • 現場:北海道標津町茶志骨東浜町

  • 死者数:1人

顔面粉砕骨折による出血多量死
ほかに目立った受傷はなし

17日午後10時を過ぎた夜。標津しべつ町の無職・N(58歳)が知人と遡上するサケを密漁しようと、車で町内茶志骨ちゃしこつ当幌川とうほろがわに向かった。現場に到着すると、Nが「様子を見てくる」と言って先に車を離れ、川の方へと向かって行った。

それから約10分後の午後10時50分ごろ、車内に残っていた男性が、悲鳴と獣の唸り声を聞き駆けつけると、顔から血を流してうずくまるNを発見した。男性はNを背負って車に戻ろうとしたが、本人が痛がり重かったため、背中から降ろし徒歩で車へと戻った。

Nは午後11時40分ごろ中標津町立病院に運ばれたが、顔面粉砕骨折の出血多量により、翌18日午前0時50分に死亡した。

受傷状況は、特に左顔面の損傷がひどく、左右とも頬から下方向へとヒグマの爪によるものと思われる深い傷があり、上唇から鼻にかけて軟部組織が頭蓋骨からめくり取られていた。頭蓋骨自体の骨折はなく、顔面以外は打撲やかすり傷程度が見られ、首辺りの損傷はなかった。

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