【発掘!狩猟界の逸話】〝楽〟してできる、名犬の作り方
文・写真|星野博
ある猟師との出会い
その猟師と出会ったのは、かれこれ15年ほど昔に遡る。
数日後に迫った猟期に備え、銃砲店に立ち寄ったその駐車場で気さくに話しかけられた。年の頃50代半ば。20歳で狩猟免許を取得したとのことなので猟歴は30年を超えるベテランだ。
それが本稿の主役、鈴木吉康という人物である。
会話の詳細は覚えていないが、話の流れで「今週末一緒にやらんか」との誘いを受けた。大きなグループに属しているわけではなく、友人1人と犬1頭で気ままに楽しんでいるという。
「猪猟ですよね?」と問うた筆者に意外な返答が返ってきた。
「鹿や。鹿狩りや」
当地の大物猟の狩猟対象といえば『猪』が主流。鹿が増え過ぎた今でこそ、有害駆除の報奨金目当てに鹿猟をする猟師も少なくないが、当時は逃げるばかりの鹿は面白くないと外道扱いされていた。猟犬としての能力も、「猪狩りに使える犬なら、鹿くらい簡単に獲れる」と軽んじられている風潮もあった。肉自体の評価も猪肉の方が遥かに価値が高い。
積極的に獲ろうとする猟師は少なく、中には「犬が鹿を追う喜びに目覚めて、猪を追わなくなる」と目の前に鹿が現れても一切撃たない猟師もいた。
そんな中で、あえての「鹿狩り」。
この男、どんな猟師なのだろう。どんな仲間がいて、どんな猟犬を使って、どんな猟をするのだろう。そしてなぜ鹿を目的とするようになったのだろう。
好奇心につき動かされて、誘われるままに承諾し、同行させてもらうことになった。
会話の中で特に気になったのは猟犬についてだった。鈴木氏は「犬は1匹でやっている。それで十分だ」と言うのみで、それ以上は語らず、重要視していないように感じられた。
筆者の知人は、犬にコダワリを持つ猟師ばかりなので、猟の話になると必ず犬の話題が主体になる。猟果は犬の能力次第で大きく左右されるので、それも当然の話だ。こちらから聞かずとも、どう獲ったかより、犬がどれほどの活躍を見せたかを熱く語ってくれるものだ。
そこをあまり語らないことが、逆に新鮮で、筆者の興味をそそった。
鈴木氏の犬・パセリ
当時の鈴木氏は、長年、猟の相棒を務めた紀州犬の雑種を飼育していた。
名前は『パセリ』。
おそらくは夫人か娘さんが名付けたのだろうが、いかにも草食系の名前に、名猟犬としての将来を夢見る期待感がまるで感じられない。
もともとパセリはキジ猟のために知人から貰ってきたそうで、若い頃にはよく獲らせてくれたらしい。山に連れて行くと鹿も追い出すようになって、これまたかなりの数を獲らせてくれたという。
残念ながら筆者が見た時には、かなりの老犬となっていて、すでに猟は引退していた。
鳥猟も鹿猟もこなしたパセリ。
「よく獲らせてくれた」と言う限りは、それなりの猟犬だったことが窺えるが、名犬ぶりを自慢げに語ることもなく、筆者の質問に淡々と答えるだけなので、実力を測り知ることは難しかった。
北村氏の犬・ジョン
パセリの引退後は鈴木氏の猟友の犬で猟をしているとのことで、飼い主であり、勢子を務める北村勝氏を紹介された。北村氏は鈴木氏より5歳ほど年長で、もともとはセッターを使って鳥猟をしていたが、鈴木氏との出会いがきっかけで鹿猟を始めたそうだ。
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