有害鳥獣対策の新たな方程式 〜 温泉 ✕ ジビエ ✕ ドローン + 有害鳥獣対策 = !?
ドローンで町おこし!?
徳島県の山間に位置する人口9,000人ほどの町、那賀町。2015年4月からこの町が全国的に注目を浴びているキーワードがある。それが「ドローン」(マルチコプター)だ。
ドローンは近年、小型化・高性能化とともに汎用性が向上し、民間用途も空撮以外の分野へと広がりを見せている。那賀町もドローンの活用に注目した一例だが、そのコンセプトは「温泉✕ジビエ✕ドローン」という世にも奇妙な組合せだった。
文・写真|佐茂規彦
地域おこし協力隊員がもたらした新方程式
那賀町の地域おこし協力隊員である喜多さんが町と深く関わったのは2014年。台風による水害からの復興ボランティア活動に参加したときだった。
その際、那賀町でボランティアの受け入れや手配などが驚くほど機能的に行われていたことに感銘を受け、引き続き町のために働くことを決意し、地域おこし協力隊員の募集に応募した。
喜多さんは町の採用面接の際、「ドローンで町おこし」というアイデアをすでに打ち出していたという。
ドローンの「とんでもない」可能性
「ファントム2を初めて見たときは、そりゃあ度肝を抜かれましたよ!」
喜多さんは、那賀町で働く以前にDJI社製のドローン「ファントム2」を見たことがあった。目の当たりにしたその性能はまさに「衝撃」だった。ドローンといえば主に空撮に使われるイメージがあったが、自由自在に飛び回るドローンを見て、「とんでもない」可能性を感じ取ったという。
喜多さんがまず配属されたのは那賀町の四季美谷温泉。そこでは「温泉×ジビエ」を打ち出し、県内で獲れた鹿肉等を使った「阿波地美栄(あわじびえ)」料理を提供していた。
「温泉とジビエをPRしているところは他にもたくさんあったのですが、そこに『ドローン』を加えると目新しく面白いと思ったんです。その3つの単語をインターネットで同時に検索しても類似施設は出て来なかったので、『これはインパクトあるぞ』と」。
このアイデアは狙いどおりのインパクトを周囲に与えたが、実際のところ、ドローンを住宅密集地で飛ばすことは出来ないので、那賀町のような人口密度の低い山間部などがドローンを気軽に飛ばすのに好立地だそうだ。
また、マルチコプター開発の第一人者、三輪昌史氏が徳島大学准教授であり、同氏の協力を得られたという幸運も重なって、「ドローンで町おこし」は一気に動き出した。
町のPRから鳥獣害対策に
2015年10月、那賀町は徳島版地方創生特区の第1号として「徳島ドローン特区」に選定された。12月からは林業へのドローンの活用にかかる実証実験を開始した。そのほか、町ではドローンレースや、ドローンの操縦体験イベントなどが企画・開催され、喜多さんはまさにドローン尽くしの日々を送る。
そんな中、町民から聞こえて来るのは鹿や猿など野生動物による農林業被害の訴えだった。那賀町では農林業が盛んだが、担い手は高齢化が進み、鳥獣被害への対策は住民だけではままならなかった。
2年目の2016年4月には、那賀町に「ドローン推進室」が設置され、6月には「ドローン ✕ 鳥獣害対策 ✕ アイデアソン」を開催し、ドローンを活用した鳥獣害対策について、県内外から集まった参加者たちを交え、ユニークな意見交換がなされた。
今年は、地域おこし協力隊員の任期として最後の1年となり、喜多さんは「ドローンを町の鳥獣害対策に役立てることを具体化したい」と意気込む。
モンキードッグ ✕ ドローン ✕ ドッグナビ
那賀町での鳥獣害対策への取り組みとして、まず注目したのが、「モンキードッグ」(サル追い払い犬)だった。
那賀町では引退した猟犬をモンキードッグとして使っているが、サルを追って山中深くに入り、ハンドラーが見失ってしまうこともしばしばあるという。そして何か活用できるものが無いかと探しているところに発見したのが、古野電気製の「ドッグナビ」が持つ中継機能だった。
「ドッグナビ」は狩猟者が受信機(狩猟者端末)を持ち、猟犬にGPS首輪(猟犬端末)を取り付け、GPS首輪が発する位置情報を受信、手元の受信機で自身の位置と猟犬の位置を把握できるという機器だ。
喜多さんが注目した「中継機能」とは、受信機同士が猟犬の位置情報を中継し合うことで、より受信範囲を広げられるというものだ。ドローンに中継機能を取り付けて上空に飛ばせば、より広範囲に犬を探すことができ、モンキードッグの活動の場が広がるのではないか、と考えた。このアイデアは早速、メーカーである古野電気に持ち込まれ、昨年末に実証実験が行われた。
実証実験レポート|ドローン ✕ ドッグナビ
2016年12月24日、那賀町役場敷地内で、ドローンを活用し、猟犬やモンキードッグのGPS 位置情報を取得する実証実験が行われた。
古野電気製の狩猟用GPSマーカー「ドッグナビ」を使い、犬がハンドラーから遠く離れてしまって、GPS首輪が受信圏外となってしまった場合を想定。中継機能を持つ狩猟者端末「HT-01」をドローンに取り付けて上空に飛ばし、犬が遠く離れても中継機能を介してその位置を把握しようというもの。
実験の手順
狩猟者端末を2台以上準備し、うち1台をドローンに取り付ける。猟犬端末は犬の首に取り付ける
狩猟者端末に猟犬端末が受信していることを確認し、猟犬の移動開始。
猟犬が離れて行き、狩猟者端末で猟犬端末を受信できなくなったところでストップ。
ドローンを上空に飛ばし、ドローンに取り付けた狩猟者端末が猟犬端末からの信号を中継し、ほかの狩猟者端末で受信できるかを検証する。
実験の状況
01 各機器の正常な稼動を確認し、関係者一同は実験会場のグラウンドに残り、猟犬だけが移動を始める(※猟犬はリード付きで、ハンドラーが引いています)。
02 グラウンドから見える里山の向こう側まで移動したところで、手元の狩猟者端末では猟犬端末の表示(犬マーク)が「?」マークとなり、受信圏外となったことを示す。
03 最終の受信地点までの距離は397mだが、猟犬はその先まで移動しているので、実際の距離は分からない。狩猟者端末は標準の短アンテナを使用している。
04 1回目。ここでドローンを上空に飛ばすが、上手く中継機能が作動しない。
05 ドローンを一度着陸させ、機器の点検を行い、2度目のフライトでは、高さ100m付近までドローンが到達したところで、手元の狩猟者端末で犬の位置が更新された。
06 犬までの距離表示は914mとなっている。二尾根ほど越えた地点にある猟犬端末の信号を、ドローンに登載した狩猟者端末が捉え、地上の端末に中継することに成功した。
07 1回目の実験で中継機能が作動しなかったのは、午前中のテスト飛行で「ドローンに搭載している映像送信機器など他の電波発信源の電源が入っており、それが障害となってドッグナビのキャリアセンス機能が作動するなどし、中継電波を発していなかったため」と考えられた。
着陸後にそれらのスイッチを切ったため、2回目で実験は成功したのだ。
ドローン ✕ ドッグナビの有効性
ドローンとドッグナビを組み合わせることによって広範囲に活動するモンキードッグや狩猟犬の位置を把握する、という目的は達成でき、その有効活用への可能性は大いに感じられた。
しかし、現状ではドローンのバッテリーの持ち時間は1回のフライトで約10~15分程度しかもたない。また、比較的風に弱く、防水性能は皆無に等しい作りになっているので、天候が悪いと飛べない場合が多い。
ドローンを実際の狩猟や有害鳥獣駆除などで使うには、タフな現場にも耐えるよう性能面での改良が必要だ。
ドッグナビに関しても、基本的にヒトと犬がそれぞれの端末を身につけて移動することが前提で設計されているので、実験のように中継機能のみを期待してドローンに搭載するのであれば、中継機能だけを持たせた小型・軽量の「中継器」を開発することが望まれる。
那賀町に見る “温泉 ✕ ジビエ”
日本人の味覚に合うジビエ料理
四季美谷温泉で提供される鹿肉は、枝肉から外した段階で塩水に約1時間漬け込み、徹底的に臭みを抜く。
鹿肉は脂身がほとんどなく、単純加熱すると硬くなる性質があるため、低温加熱、長時間加熱、高温短時間加熱、漬け込み調理など部位ごとに調理法を変え、臭みがなく柔らかい肉として提供される。
ジビエ料理を注文する客の7~8割はリピーターで、年間130~140頭分の鹿肉を消費しており、最近では肉が足りないほどの人気だ。
鹿肉は鯨肉に近い
「鹿肉は赤身で鯨肉に近く、夏は猪肉のように外に脂が巻いて」いるのが特徴で、鹿肉と牛肉などの違いを理解し、「下処理さえすれば鹿肉は使いやすい食材」だと中田さんはいう。
さらに中田さんはコストを下げるため、ロースやモモなど大きな部位の肉だけではなく、細かな肉や筋まで煮込みや挽肉にするなど、1頭分の肉を余すことなく使い切るようにしているそうだ。
四季美谷温泉で食べられる代表的な鹿肉料理
町のジビエを支える解体処理施設
手探りの1号店
「使い勝手は悪かったですね」
平井さんが手がけた県内初の解体処理施設は手探りの連続。予算の都合で、狭いプレハブ小屋を改築しただけの簡素な造りとなり、鹿の吊り上げには手巻きのウィンチを使っていた。途中から電動ウィンチに交換しただけで、作業がかなり楽になったと喜んだそうだ。
その後、県下では解体処理施設が増え、昨年には平井さんも、これまでに蓄積したノウハウが活かされた県下6番目となる施設を開設した。
鮮度のためには生け捕り
鹿肉の鮮度や衛生面の観点から、最も確実な方法は「『生け捕り』が一番確実だという結論に達し」たという平井さん。
平井さんの施設では、猟師がワナで鹿を獲った後、鹿の脚を括り、暴れないよう顔に覆いを被せて施設に持ち込んでもらう。止め刺しと放血は、捕獲現場ではなく施設で行っている。現在、生け捕りが出来る猟師は3名ほどしかいないといい、決して効率は良くないが、それが肉の品質を維持するための最善の方法なのだという。
徳島県だけでなく、野生肉の解体施設が各地に増えているが、「その運営を維持できるか否かは、協力してくれる意識と能力のある猟師とのつながりに掛かっている」のだ。
(了)
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