【ソロハンターの流儀】本川系四国犬の系譜を担う単独猪猟師・山崎利夫
半世紀にわたる単独猟師の流儀
本川系四国犬を使う猪猟師と聞いて、山崎利夫さんの名前を思い浮かべる猟師は少なくない。
過去には有名な愛犬雑誌にも登場し、黒四つ目の本川犬たちを引き連れて山を歩く姿は、四国の山岳部で活躍したであろう古き猪犬猟師の面影を漂わせた。
今回の単独猟師の特集企画は、この山崎さんありきの企画だったと言っても過言ではない。半世紀に渡り、実猟四国犬で続けて来た猪単独猟。筆者を含め現代狩猟者たちが刮目するべき猪狩りがそこにあったのだ。
文・写真|佐茂規彦
本川系四国犬での単独猟
「高知でシシ狩りと言えば、昔っから本川(系四国犬)やき。」
山崎さんに本川系四国犬を使う理由を尋ねることは愚問だった。山崎さんが猪狩りを始めた半世紀前、それよりもっと前から、四国で猪犬と言えば本川系四国犬が最良とされていた。
険しい山で鍛え上げられた前脚はガッチリとしており、鉢(額のこと)の広い顔に太い尾が何とも頼もしい。体毛は密生し毛足が長く、寒さに強い。一般的に言われるような他犬との喧嘩っ早さも無いという(実猟犬として不必要に攻撃的な個体は繁殖から除外されていることは考えられる)。
昔の猪は大きいものが多かったため、一度に犬を5頭ぐらい放していた時期もあったが、今では1頭か2頭で十分だという。
猪の寝屋があちこちにある豊かな山での単独猟のため、いわゆる「見切り」はせず、犬とともに山に入り、猪の痕跡を追って寝屋まで歩く。犬が吠え始めたら、寝屋にいる猪を見つけた合図だ。
激しく吠えている間は、猪は犬しか見ていないので、その間に人は風下から距離を詰める。逆に吠え込みが弱いときは猪の気迫が犬に勝っているときであり、周囲への警戒心が依然高いため、近づくには慎重を要する。
犬と猪の修羅場に20m以内にまで近づいたら、そこから先は最も静かに歩かなければならない。
単独猟において、犬が離れたままになるのは望ましくない。戻りが良い犬が好ましく、自身の繁殖経験上、戻りの良し悪しは遺伝的な形質によるところが大きいそうだ。今では狩猟用のGPS受信機があり犬の所在は分かりやすいが、昔は山の中で火を灯しながら犬の帰りを待ったこともあるという。
かくして単独猟の成否は技術や経験と同等以上に体力勝負であるところが大きいのだが、山崎さんは現在78歳。平成22年には胃癌のため胃を全摘出し、もともと細身の体型だったのがさらに細くなった。
当時、20頭ほど飼っていた犬も病気を機にかなり数を減らした。「本川系の犬で猟をしてる猟師は知ってる限りかなり少ない」という現状を鑑みると、実猟系の本川系四国犬を持つ山崎さんのような猟師は今の猪犬界においてかなり希少な存在となっている。
山崎さんの本川たち
四国犬とは
四国犬は、昭和12年に国の天然記念物指定を受けた中型日本犬の一種で、四国の山間部を発祥とする。その系統は徳島系、高知安芸系、愛媛県周桑郡系、幡多宇和原系、そして本川系の5つに分類される。
中でも本川系四国犬は高知県土佐郡本川村(現・いの町)を中心として形成されたものであり、特に猪犬として耳目を集めた背景には、同地が山間僻地にあることから雑種化せずに純血化が進んだこと、重要な農作物の一つであった甘藷などを猪害から守るため猪狩りに欠かせない存在であったこと、などが挙げられる。現代では交雑が進み、実猟犬としての純粋な本川系四国犬を見られることは全国でも珍しくなってしまっている。
究極の出猟スタイル
山崎さんの単独猟に同行した。車から降りると持ち物以前にまずは山崎さんのファッションに目が引かれた。
上からグリーンのマウンテンハット、白いネッカチーフ(というか長い綿布?)、赤い開襟シャツに年代物のブローニングのハンティングベスト。そして何とジーンズパンツに地下足袋という下半身。それらすべてが山崎さんの歴史を物語るように渋く色褪せている。
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