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巻狩りのススメ 〜 なぜ今、「巻狩り」なのか?

本稿は『けもの道 2020春号』(2020年4月刊)に掲載された記事を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。

なぜ今、「巻狩り」なのか?

文|羽田健志

狩猟の「きっかけ」から「育成」へ

これまで、私や私の周りでは、狩猟者をなんとなく勝手に次のように区分してきました。

マタギ」(東北地方を中心とする伝統狩猟集団)、「猟師」(狩猟で生計を立てている、或いは周囲から本当に凄いと思われている狩猟者)、「鉄砲撃ち」(趣味の狩猟者、最も一般的)、「ハンター」(都市部在住の富裕者、時に海外遠征も)、「マニア」(とにかく銃が好き、猟そのものより銃を撃ちたい)、「わな師」(わなのみで狩猟する者、以前はごく少数、腕は確か)という風に。

その後、狩猟を取り巻く環境の変化によりそれはさらに多様化しました。

全国的に鳥獣被害が増加し、捕獲に対して報奨金が出るようになり「賞金稼ぎ」(わなや流し猟が主、個人行動)が現れました。捕獲がお金になり、ジビエという言葉がもてはやされるようになると「ビジネスマン」(狩猟は目的ではなくビジネスのための手段)、「ジビエマン」(とにかくジビエという人、最近は本当にこの名を冠したキャラが出現)が現れました。

そしてここ最近はインターネット、特に手軽に動画や写真を投稿できるSNSの普及により「パフォーマー」(狩猟を通じて自己表現、あるいは自己表現の手段として狩猟を利用する者等)が現れました。また、「パフォーマー」と「ビジネスマン」や「ジビエマン」は親和性が高く、お互い手を結び様々なイベント等を行うこともあります。狩猟者も多様化の時代です。

「狩猟者が減少したことにより鳥獣被害が増加、鳥獣被害軽減のために狩猟免許取得者を増やそう」という少々短絡的とも思える発想が浸透し、これに基づく行政の働きかけ等により、狩猟免許取得者は増加しました(といってもその中で大幅に数を伸ばしたのはわな免許取得者)。

そして、「パフォーマー」の活躍もこれを後押ししました。SNSなどによる動画配信が、それまでなかなか一歩を踏み出せなかった人たちの背中を押すことにもなり、狩猟の世界に対するハードルも下げたのです。

行政や「パフォーマー」の貢献によるきっかけづくりにより、狩猟免許取得者は増加しましたが、いざ実際の捕獲現場に目を向けてみると、日々現場で活躍している人数はそれに比例していません。むしろトラブルや嘆きの声が増加しました。

もし本当に鳥獣被害の軽減のために多くの狩猟者が必要なら、免許を持っているだけではなく、多くの狩猟者が日々現場で活躍し、それなりの技術を習得していなければなりません。

きっかけづくりが浸透してきた今、行政は次の課題として「狩猟者(捕獲者)の育成」に直面することとなりました。きっかけづくりに多大な公費を投入してきたのです。それを無駄にするわけにはいかないのです。

このように、最初のハードルが下がった分、次のハードルを乗り越えるのが難しくなってきました。

以前は最初のハードルが高かったので、それを乗り越えようとする者はそれなりの覚悟を持った者か、例えば親や祖父が狩猟をやっている等周りの環境が整っていた者が主だったので、多くが次のハードルも乗り越えることができましたが、今はそうではありません。

時代の変化や教育環境の変化も相まって、まだまだそれらの変化とは一線を画した狩猟の現場に入り込めなかったり、ドロップアウトしたりと、次のハードルを乗り越えられない者が後を絶ちません。

また、目指す猟法が以前と変わってきたこともその一因であるとも考えられます。

狩猟には、様々な猟法がありますが、今号(けもの道2020春)では、今課題となっている狩猟者の育成、つまり次のハードルを乗り越えるために現時点で最も有用であると思う「巻狩り」について簡潔に述べたいと思います。

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