【狩猟の現場から】大物猟天国 北海道
文|溝口壮一
私は、現在72才の老ハンターです。今回縁あって『けもの道』再出版に寄稿する幸運に恵まれ、今も楽しんでいる北海道における大物猟について、私の経験を読者の皆様に少し紹介したいと筆を執りました。
北海道といえばエゾ鹿猟が盛んで、さらには超大物である羆にも会えるという、真に大物ハンティングの夢の大地です。機会を見てハンターの皆様には一度は訪ねて頂きたいと思っています。
北海道でのエゾ鹿猟は、その独特な地形と気候から、「流し猟」、「忍び猟」、「巻き猟」を行っていますが、大半は流し猟です。
文字どおり車で林道を流し(走り回り)、鹿を見つけて射獲する猟法で、鹿を捕獲できる確率はこれが一番高いのです(広範囲を探索するため、日によっては200km以上走ることもある)。
この猟法は、簡単そうに見えますが、なかなかどうして実は奥深いものがあります。
鹿の習性をよく知り、その地域での行動を読み、どの時間帯にどの林道を攻めるのか、鹿の食べ物がどこにあるのかなど、それらの判断で鹿発見の確率が大きく変わって来ます。
また、2、3人で1台の車を流すやり方は左右の探索が楽で、効率も良くなります。ところが1人での流しは相当な脇見運転となり、狭く曲りくねった林道を脱輪せずに走るには、運転技術も必要となります。
思い出の流し猟
「戻り鹿」を狙い撃ち
思い出の流しは、釧路地区厚岸町でのこと。
当地の鹿は海の潮風がしみ込んだ草を求めて夜半に海岸に下り、朝方に山へ帰って行く。夜明けと同時にこの「戻り鹿」を狙い、海岸線を流す。山へ戻りたい鹿は、車を見ても逃げずに防風林の中で立ち止まっている。
こちらは時間との勝負だ。倒しては目印を置き次へ、また倒しては次へと走る。ほとんどが100m以内での射撃で、楽な猟だった。夜明けから1時間ほどで9頭仕留めた。まだまだ倒せたが、回収、解体を考えると欲張ることは出来ない。
要は、出会いのチャンスが最も多いのは夜明け近辺だ。時には、こちらが走っていく先を渡り始めている群れに会う。そんな時は躊躇なく車で群れに突っ込む。群れを分断出来れば海側の鹿は待っているし、渡ってしまった鹿も後続を待っていることが多く、射獲のチャンスが生まれる。
流し猟には車の停め方、降り方、撃ち方にコツがある。
流しだからゆっくり走っているのだが、鹿を見つけてすぐ車を停めると鹿は逃げ出す。ゆっくりと鹿の目線を切る様に停まるのだ。立木や雑草で、鹿の目線を切る。当然、鹿を見つけた時も目線を合わさず、横目で見て見ぬ振りをする。車を停めてもエンジンは止めず、車から降りてもドアは開けたままにする。
鹿に危害を加えない素振りをするのだ。自然界では急な動きは危険信号。何をするのもゆったりと、鹿がこちらを見ていてもゆっくり挙銃し、素早く引鉄を引くことが肝心だ。
鹿の群れとのデッドヒート
色々な出会いがあった。ある年の終猟日の前日のことだった。
厚岸町で朝一番に奥別寒辺牛林道を目指し、道々を走っているとオス鹿の群れ6頭が畑にいた。「おっ」と思いスピードを緩めると、群れは走り出した(何しろオスは用心深い)。その方向は何と、奥にではなく道路と並行にである。「これは、道路を渡りたいのだな」と察し、そうはさせじと追撃に入る。
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