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【大会レポート】鳥猟犬界のビッグイベント 〜 第61回全日本チャンピオン戦
本稿は『けもの道 2019春号』(2019年4月刊)に掲載された特集記事『日本の鳥猟犬界』を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。
鳥猟犬トライアルのビッグイベント
猟期が始まってまだ間もない平成30(西暦2018)年12月1・2日、富士山の裾野に位置する西富士猟区・本巣猟区には、大勢の鳥猟犬とその愛好家たちが集結した。一般社団法人全日本狩猟倶楽部(以下、全猟)主催、第61回全日本チャンピオン戦だ(第5回全日本若犬チャンピオン戦、第38回全日本幼犬猟野競技大会も同時開催)。
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本戦は、主にポインターやセターなど、全国の予選を勝ち抜いて来た選りすぐりの鳥猟犬とハンドラーたちによって争われる。
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全猟とは?
「全猟」とは狩猟家有志、猟犬愛好家たちによって誕生した民間の狩猟者団体であり、そのルーツは昭和9年9月8日の大日本狩猟犬倶楽部関東部会の創立にまでさかのぼる。その目的は狩猟家のモラル向上と猟犬の維持と改良・普及、狩猟鳥獣の保護繁殖であり、トライアル競技の運営のほか基幹業務の1つである猟犬の血統書発行頭数については、創立以来60万頭を超える。我が国における鳥猟犬のフィールドトライアル(猟野競技会)は昭和8年に初の全国大会が開催されており、現在においても全猟主催の全日本チャンピオン戦はまさに鳥猟犬日本一を決める猟犬界のビッグイベントなのだ。
チャンピオン戦の進行方法
今回のチャンピオン戦は計15組(16組予定のところ棄権があったため)で行われた。
ハンドラー1名に対し1頭の猟犬のペアで、1組あたり2ペアずつ、猟区内のコースを順に周り、自然のゲーム(キジ)を相手に猟芸を競う。
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1つのコースの行程は約1km前後、競技時間は概ね30分。捜索、ポイント、フラッシュなど鳥猟犬として求められる一連の行動が評価の対象とされ、ゲームに対する射撃は行わない(ハンドラーは銃を所持せずに参加)。
審査は、4名の審査員(審査長1名、審査員2名、レポータ1名)がすべての組に帯同し、実際にハンドラーと猟犬の競技内容を間近で観察し、合議によって評価・審査する。審査員は全猟各支部予選などで審査経験豊富なベテランから選出されている。
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主な出場犬種
英ポインター
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上の写真はトチギブラザー・エルフュー・マーク(30番)。鳥猟犬の代表的犬種であって、愛好者が多い。18世紀初めに英国に輸入されたオールド・スパニッシュ・ポインター(スペイン原産)を原種として、改良固定されたものが現在の英ポインターといわれる。
英セター
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上の写真は16組のチバホリエ・アイム・ホワイト(5番)。英ポインターと並ぶ鳥猟犬で、やはり愛好者も多い。スペイン原産のセッティング・スパニエルがその原種と言われる。
「セター」の名はゲームを前にして座り込む性質、即ち「セットする」ことから発したものという説と、昔は網猟に用いられたときに、ゲームを捕獲する準備を完了させる意味、即ち「お膳立てをする」という意味での「セット」が語源であるという説がある。
ただし、現在のセターでセットする(座り込む)ものは少なく、立ったままでポイントするものが多い
大会用語解説
ポイント
犬が獲物の近くで獲物の方を向いて立ち止まり、ハンドラーに獲物の存在を知らせる行動のこと。ただ立ち止まったり、ロケーティングすることばかりを言うのではなく、ゲームの存在と直結した状態で、完全に停止していることが必要である。
ロケーティング
ゲームの所在位置を確実につかむことをロケーションといい、その行為をロケーティング(またはロケート)という。犬がポイントして指示するところにゲームがいれば、「正しいロケーティング(またはロケート)であった」という。
フラッシュ
ゲームを飛び立たせること。
ゲーム
狩猟鳥獣のこと。猪、鹿以上の大型のものを「ビッグゲーム」(大物)というように、トライアルにおける対象鳥類のみならず、狩猟におけるあらゆる鳥獣に対して用いられる一般的な狩猟用語。
レザーブ
トライアルでは、一位から三位に準ずる入賞犬をレザーブと称する。
ギャロップ
犬の歩態の一つ。前肢、後肢をそろえて駆ける姿をいう。スピードの点で犬の走り方としては最も速いけれども、時と場所により走り方を変えることも必要となる。
トロット
犬の歩態の一つ。四肢を交互に出して歩くことをいう。
グラウンドワーク
グラウンドワークはインテリジェンス、スピード、レンジ(捜索範囲)、スタミナ(耐久力)の四者で構成される、捜索の基礎的条件。良きグラウンドワークは、猟野に適合してペースの変化を生み、良きパターンが描かれ、迅速な見落としのないゲームの発見を可能とする。
グラウンドワークは、バードワーク中のポイントとともに最も基本的かつ要求度の高い猟技であって、これに欠点の多い猟犬は高い評価を受けられない。
生産
ポイントからフラッシュまで一連のバードワークによって、ゲームを飛び立たせること。
リロケート
ポイントした後、何らかの理由でポイントを解き、再び狙い直してポイントすることをリロケーションといい、その行為をリロケーティング、リロケートなどという。キジなどの逃避能力の高いゲームは一度ポイントされても、その場の状況によっては這う場合がある。
ポイントコール
犬がポイントしたことをハンドラーが視認して審査員に対してポイントの宣言(コール)をすることであり、トライアルにおいて審査・評価の対象となる。ただし、コールが無い場合に、犬のポイントそのものが評価されないというわけではない。
ランナップ(ランナーアップ)
チャンピオンシップ・トライアルにおいて、チャンピオンに準じるものをランナーアップという。準チャンピオン。チャンピオンシップの規定によるが、多くの場合、ランナーアップの指定は審査員の意向に任されている。
※※本稿における用語解説はすべて『全猟』誌掲載の「用語と解説―猟犬篇」を参考としている。
【写真で追う】チャンピオン戦の模様
競技が2日間に渡った全15組中(16組中、棄権により1組減)、ほとんどの組でゲームは3羽以上出ていたが、残念ながら1組だけゲームが出なかった。
チャンピオン戦のチャンピオン、レザーブということを考えると、入賞犬以外の犬については、ハンドラーも犬も興奮しているせいか、やや荒れ気味の展開が多かったように思う。
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その中で、チャンピオン犬については審査員一同の判断が一致した(閉会式での伊藤審査長の審査講評より。筆者書き起こし)。
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富士山をバックに斜面でポイントするムサシTU・カール(27番)。これが日本の猟場であるという美しい事実をぜひ読者の方々には知っていただきたい。
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ハンドラーのすぐ脇でポイントするチャレンヂャージンノ・エル(7番)。その先にゲームが潜んでいることが分かる緊張の一瞬。
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早立ちして飛び立ったオスキジ。審査対象はオスキジのほか、メスキジ(※現在、メスキジの捕獲は禁じられている)も含まれるが、やはりオスキジが出るとテンションが上がる。
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8組のトチギブラザー・エルフュー・マーク(写真内左・30番)と、シブシ・スタイリッシュ・リュウ(写真内右・15番)。競技は2頭同時に放犬されて行われるため、得てして互いの犬が先を争うように狩っていく姿が見られるが、相手犬に振り回されない冷静さが求められる。これは犬だけでなくハンドラー同士にも同じことが言える。
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ギャロップで駆け抜けるキングダム・ラスト・エクリプス(4番)。トライアルでは時と場所によってギャロップからトロットに移ることは許されるが、常にトロットであることは好まれない。
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ゲームの臭いを感じたのか、茂みの近くでスピードを落として様子を伺うシーフィールド・マイク(8番)。駆けながらの捜索の中で犬の歩態の変化を見ることが重要だ。
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競技中のフィールドから逃げていくオス鹿。競技は自然のフィールドや開けた牧草地で行われており、鹿が出ることも少なくない。
犬が鹿を追ってしまっては評価の対象にはならず、時間を大きくロスすることになるが、チャンピオン戦に出る犬たちだけあって、鹿にはほとんど反応しない。
【審査講評】チャンピオン犬|JM1RDW・ラッキー・ベスト
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本大会において、「この犬がチャンピオンにならなければどの犬がチャンピオンになるのか?」と感じさせる、グラウンドワーク、バードセンスの良さがあった。結果、審査員の満場一致でチャンピオンとさせていただいた。
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①スタートより、猟場を合理的な形で処理し、成犬らしく次への目標を瞬時に判断する目線、行動といった素質そのものが見受けられた。そして山道を下り歩を左へと進めると、ポイント。ハンドラーがコール、生産を命じる前に3羽のゲームが早立ちした。
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②興奮することなく次への狩り込みで進んでいく。安定感のあるグラウンドワークの後、道路を渡って、その次の道路の手前でポイント。審査員一同、「なぜここで止まるんだろうな?」というかなり異様なポイントだった。このポイントは、その道路を渡った先にある茅場に向かってのポイントだった。
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③そこからリロケートして茅場に入り、ポイントする。そして、ゲームを生産した。この一連の流れは、さすがと言うべきか、もう少し決断力良く行った方がいいか、触れるのはどうしようかと思ったが、あえてそういうこともあるということ。
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④そのポイントが終わり、さらにその2分後。風が逆に吹いているような斜面でポイント。審査員も「本当にいるのか?」と半信半疑の中、ハンドラーは何の躊躇もなくポイントコール。
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⑤犬に近付き、生産を命じ、見事にオスキジを生産した。この一連のバードワークについては、審査員一同、長年犬を見てきた者でも少し考えねばならない点があった。
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