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北海道犬『菊次郎』と猪猟

本稿は『けもの道 2020秋号』(2020年9月刊)に掲載された特集記事『北の大地の日本犬 天然記念物北海道犬』を note 向けに編集したものです。掲載内容は刊行当時のものとなっております。あらかじめご了承ください。


文・写真|佐茂規彦

菊次郎

本誌への寄稿や取材で協力いただいている山梨県猟友会青年部長かつ猪猟師の羽田健志さんもまた、十勝森田荘から実猟系北海道犬をたびたび迎え入れている。羽田さんは北海道犬のことを独自の敬意を持って「アイヌ犬」と呼んでいるので、本稿でもそう呼称する。

過去、十勝森田荘から羽田さんの手元にやって来た2ヶ月齢のアイヌ犬「菊次郎」がいた。菊次郎は平成13年生まれの千歳阿久系の牡犬だった。

当時、羽田さんは地元の山梨県内で熊を獲るべくアイヌ犬を欲していたとき、往年の狩猟誌『狩猟界』(狩猟界社)の誌面広告で実猟系北海道犬の仔犬販売の情報を見つけた。

その犬舎が十勝森田荘であり、森田さんが実猟系北海道犬を世に出し始めて間もないころだった。

北海道犬の「菊次郎」。平成13年11月生まれ、牡、赤。羽田さんいわく「鳴き犬として歴代ナンバーワンの犬」

菊次郎が来てからは毎日のように山へ連れて行った。羽田さんの自宅は富士山麓の山裾にあり、猪や鹿、熊が巣くう深く大きい山に入るのは簡単で、菊次郎の猟欲を引き出すには格好の訓練場になるはずだった。

しかし、多くの猪犬が猟欲を見せ始める6ヶ月を過ぎても菊次郎は猪に対して何もしなかった。それどころか初めて猪と遭遇した時は足元に逃げ帰って来たほどであり、いまだ猟欲の片鱗を見せることも無かった。

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