ナイフを研ぐ 〜 猟期中に酷使したモーラナイフを研いでみた
文・写真|小堀ダイスケ
実用的なナイフとは
ハンターにとって、絶対に欠かせない道具のひとつがナイフである。
一犬二足三鉄砲、などと言うが、狩猟のスタイルによっては、むしろ鉄砲より重要ということもある。どんなにいい鉄砲があっても、ナイフがなければ獲物の肉を取ることができないわけで、読者の皆さんも、きっと何本か愛用のナイフをお持ちのはずだ。
では、良いナイフとはいったいどんな物だろうか。
まず考えなければならないのは、折りたためるフォールディングナイフか、鞘に収めて持ち歩くシースナイフのどちらを選ぶかだ。
フォールディングナイフは持ち歩きに便利だが、獲物を解体すれば開口部にも血脂が侵入するため、手入れが面倒だというデメリットがある。鳥猟用ならともかく、大物猟用としては何か特別な理由がない限り不向きだと言わざるを得ない。また、何かと片手がふさがっているような状況では、鞘からスっと抜いて即座に使えるシースナイフの方がやはり便利だ。
次に、ハンドルの素材とブレードの鋼材についてだが、スタッグやウッドなど、天然素材のハンドルはあまり実用向きとは言い難い。もちろん、何ともいえない趣と風合いがあるのは確かだが、高価であることや、水に弱いことなどを考えると、やはりシンセティック系の合成樹脂素材に勝る物はないだろう。
かく言う筆者も、たいそう美しいスタッグハンドルのナイフを何本も持ってはいるのだが、いざ出猟の準備をする段階になると、結局、実用的な合成樹脂ハンドルのナイフをバッグに入れることが多い。
実用的なハンドル材の中でも、布や木を合成樹脂で固めたマイカルタなどは風合いと実用性のバランスも良いが、削り出して成形しなければならないため、どうしても価格が高くなってしまう。その点、射出成形によって製造される硬質ラバーなら価格も手頃で、適度な弾力があるため滑りにくく、実用主義のハンドル材としては最高だ。
ブレードの鋼材はハンドル材以上に多種多様なため、なかなか端的には断言できないが、炭素鋼かステンレス鋼か、どちらを選ぶのかというのが重要なポイントだ。
炭素鋼はサビやすい反面、研ぎやすく、何頭も解体しなければならないような状況下では、タッチアップしながら切れ味を維持することができる。コックが料理の途中で包丁を研ぎ棒でシュッシュとこすり上げるが、あれと同じ感覚である。
いっぽう、ステンレス鋼は種類が多いため一概には語れないものの、砥石に当てたとき炭素鋼ならサクサクと研げるのに対し、ステンレス鋼だと少々ゴリゴリするような感覚があり、一般的には若干研ぎにくい物が多い。もちろん、サビにくいというメリットがそれを補ってあまりあるもので、どちらを選ぶかはハンターの考え方次第だ。
ちなみに、数あるステンレス鋼の中でも切れ味と研ぎやすさのバランスが良いのは 440C だ。最近では中国製の 9Cr13CoMoV や 8Cr14MoV といったステンレス鋼が出回っているが、440C に迫る高性能ながら安価なため、お買い得だと言える。
また、ATSー34 は最高のステンレス鋼だが価格がやや高く、さらに、ZDPー189 やカウリX などの粉末冶金鋼はズバ抜けた刃持ちの良さが特徴ではあるがあまりにも硬度が高く、普通の砥石では研ぐのもままならないため、一般的なハンターには少々扱いの難しいステンレス鋼かもしれない。
3本のモーラナイフ
今回、用意した3本のナイフは、すべてモーラの炭素鋼ブレードだ。
ガーバーグ、ブッシュクラフト、コンパニオンヘビーデューティと、それぞれ違った特徴を持つモデルだが、どれも実用性では他の追随を許さない優秀なナイフである(※3本とも炭素鋼タイプ、ステンレス鋼タイプの2種類があり、本稿ではいずれも炭素鋼タイプを使用している)。
ガーバーグのハンドルは他の2種に比べて若干固めで、手の中で自由が利くような印象を受けた。また、ハンドル後端まで鋼材が貫通したフルタング構造のため、全ラインナップ中、もっとも頑丈だ。その分、重量がかさむのと価格が高くなってしまうのがネックだろうか。
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