九州地犬・ハチと老猟師 〜 良い先犬と猟場が良い猟犬をつくる
写真・文|佐茂規彦
鶴千歳とハチ
猟歴は長ければ良いというものではないが、それが60年以上ともなれば、そして今でも猪単独猟に出かけているというなら次元が違ってくる。
長崎県長崎市在住の鶴千歳さんは85歳(取材当時)。令和元年度猟期も昭和、平成時代と変わらず猪犬・ハチとともに狩りに行く。
単独といっても実は鶴さんには「記録係」が帯同しているので、これまでの猪猟の模様はYouTubeで見ることができる。その動画は一部界隈の猪犬猟師の間で局地的に人気を博していたのだが、当編集部に寄せられた「ぜひ取材して来てほしい」という要望がきっかけとなり、今回ご本人と接触することができた。
猪猟の「カタ」と「カマ」
ビーグルを使ったウサギ猟が10年、その後、猪の巻き狩りに参加すること30年。鶴さんが猪猟を始めたころ、長崎市内で猪猟グループはひとつしかなかった。
「猟を始める前にはしっかりと『入りカタ』と『出カタ』を見てましたよ」
「カタ」というのは猪の足跡などの痕跡のことで、いわゆる「見切り」や「跡見」をしっかり行っていたということだ。
ところが今では山に入れば猪の痕だらけという状況になり、「カタ」を見るまでもなくどの山にも常に猪がいるほどになっている。そしてあるとき、鶴さんは気づいてしまったのだ。
「巻き狩りをしてると、ときどき犬が『カマ』で猪に吠えることがあって、追い出して巻き狩りで撃つより、『カマ撃ち』の方が効率よく獲れることに気づいたんです」
「カマ」というのはいわゆる「寝屋」のことで、言葉の用法としては「寝ガマ」(=寝屋)、「カマ撃ち」(=寝屋撃ち)といった使い方になる。ところ変われば猟師用語も変わるもの。しかし、猪猟における要所となる状況やポイントは土地が違っても変わらないことの裏返しでもある。
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