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電気のおはなしその38・真空管(3)多極管

三極管が電気通信や電波利用の扉を開き、戦争との絡みもあって爆発的な進化を遂げ始めると、三極管の利点とともに欠点も明らかになってきました。
三極管の欠点は、入力信号が入る端子であるグリッドと、出力電圧が発生する端子であるプレートとの間の静電容量が大きく、そのため高い周波数になると上手く動作しなくなるほか、プレート内部抵抗が小さく、高い電圧増幅度を取りにくい点などが挙げられます。

この辺の詳しい話は回路論になってしまうので割愛します…もし需要があれば、将来どこかで「真空管のおはなし」として記事を書ければいいのですが、果たしてそんな時が来るのかどうか?そんな物の需要があるのかどうか?

四極管

そこで、グリッドとプレートの間にもう一つ電極を入れ、この電極にプレート電圧と同じか、少し低い電圧を掛けて使うことが考えられました。これはスクリーングリッドと呼ばれ、カソード・グリッド・スクリーングリッドの三者で、グリッドで電子の流れを制御しつつカソードから電子を引き出す、という作用を行わせます。スクリーングリッドを通り抜けた電子は、あとはプレートに捕獲されることでプレート電流が流れることになります。
このようにして作った四極管は、内部抵抗が大きく、結果として大きな電圧増幅度を得ることができるようになりました。

図1・四極管の原理図


しかし、プレートに当たった電子は強いエネルギーを持っているため、プレートを叩くと同時に金属板表面の電子を弾き飛ばし、プレートからの電子放出を促してしまいます。このようにして飛び出した電子を二次電子と呼びますが、二次電子がスクリーングリッドに吸い込まれたりするなどして特性を悪化させる原因となります。四極管で起こるこのような特性は、電圧ー電流特性の負性特性として現れ、これをダイナトロン特性(ダイナトロン現象)と呼んでいます。

五極管

このような四極管の特性を改善するため、スクリーングリッドとプレートの間にもうひとつサプレッサーグリッドを入れ、これを接地電位としたものが五極管です。

図2・五極管の原理図

真空管内の電子は、カソードから放出されるとグリッドの隙間を抜け、一部がスクリーングリッドに吸収されるも大部分はスクリーングリッドを通り抜け、やがてプレートに達します。プレートに達した電子はプレートを叩いて二次電子を放出させますが、プレートから飛び出した電子は近くにサプレッサーグリッドがあるため、サプレッサーグリッドとプレートの間で構成される強力な電界によってプレート側に強く吸引される力を受け、すぐにプレートに引き返していきます。サプレッサグリッドは、プレートの近くに接地電位を置くことでプレートとの間に強力な電界を構成するのが目的なので、細かい網の目ではなく大雑把な金属板で構成されることが多いです。こうすることで、大変特性の良い真空管を製作することができるようになり、五極管が非常に多く製作され利用されるようになりました。

ビーム管

ビーム管は、五極管の特性をさらに向上するために考案されたもので、基本的な構造は五極管なのですが、信号が入力されるグリッドとスクリーングリッドの間の目合わせが行われ、電子銃を奇麗に整ったビームとすることで特性の改善を行ったものです。これは真空管の製作技術が飛躍的に向上し、数ミクロン単位での精密な組み立てが可能となったことで実現したものです。

六極管以上の多極管・特殊管

一般的な増幅用途であれば、五極管もしくはビーム管で十分な特性を得ることができますが、無線通信の発達により、複数の交流信号の乗算を行ったり、FMの信号を復調したりなどの用途として、さらに色々な真空管が考案され作成されることになりました。
二つ以上の信号を入力するグリッドを持ち、電子銃をそれら双方で変調することで、スーパーヘテロダイン受信機になくてはならない混合動作を行うことができます。このためには七極管が広く利用されました。
また、サプレッサーグリッドを通常のグリッドのような巻線とし、ここに同調回路を構成することでFM信号を復調するデュアルコントロールグリッド管、同様な目的で使用するゲーテッドビーム管、あるいは電子銃を複数のプレートの方向に切り替えるビーム偏向管など、枚挙に暇がないほど多種多様な真空管が開発・製造されてきました。

…( ゚д゚)ウム
この路線でどんどん書こうとすると、やはり「真空管のおはなし」を立ち上げないといかんですなぁ。

というわけで、1800文字も書いたのでこの位にしておきますね。
(あっ、ガス入り放電管とかの話もあるけれど…それは電気機器論に入れてどこかで書くかな…?)

以上。

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