電気のおはなしその73・電気通信(1)電信の歴史
今回は、電気を用いて通信を行うこと、つまり電気通信についてお話しますよ。
そもそも「通信」とは何でしょうか?
それは、「信」を「通」ずること、すなわち誰かの頭の中にある情報(=心や信念といったもの)を他人に対して通じることをいいます。日常では、言語や身振り手振りなどの音情報、視覚情報を通じて互いに情報をやり取りしますし、文字を用いて情報をやり取りすることもできます。有史以来、人間は直接対峙して音や視覚による情報交換を行っていましたが、やがて文字が発明され、情報を固定化して他人に広く伝えることが出来るようになりました。とはいえ、人間一人が伝えられる情報の量や範囲は狭いものでした。
人間が、自らの体(音声や視覚情報)に頼らずに情報を伝えるようになったのは、狼煙や腕木信号などの媒体(メディア)を利用するようになってからです。武田信玄は狼煙を多用し、馬を飛ばすよりもはるかに早く情報を伝達したといいます。フランスでは、18世紀ごろから腕木信号が使われました。
ボルタが実用となる電池を発明し、安定した電流が得られるようになると、この電気を通信に用いようとする動きが始まりました。19世紀になると、主に鉄道の線路に沿って敷かれた有線電信が実用化され、それまでの狼煙や腕木信号とは比べ物にならないほどの高速な情報伝達が可能であることが見いだされ、電気を用いた通信が大きく注目されることになります。
電気通信の一つの完成形としてモールス電信が普及しだしたのは1800年代中盤です。電信は、電流が流れるか流れないかの2値により情報を伝えますから、立派なデジタル通信だったのですね。その電信を効率化するためにモールス符号が考案され、大統領選挙に伴うニュース伝送合戦などを契機として爆発的な普及を見せました。
やがて、電信は有線電信だけではなく、電線を必要としない無線電信に発展し、19世紀後半から20世紀前半まで無線電信の黄金期を迎えました。今でこそ、どこにいても携帯電話で通話もデジタル通信も何でもできますが、つい100年前は、電波に音声を載せるどころか正確に決まった周波数の電波を作り出すことすら不可能で、火花送信機を使って無理矢理電気を空中に送り出していたのですね。
電気の利用方法として、光や動力、熱などのエネルギーを得るというのは勿論ですが、有線通信や無線通信など、情報を載せる媒体としての電気エネルギーを忘れることはできません。今回はこの位にして、次は音声を電気に載せることについてお話していこうと思いますよ。
以上。