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電気のおはなしその59・コイルに交流電圧を掛けたときの電圧・電流・電力

コイルに関する基本的な性質は、電気のおはなしその43・コイル(2)磁界は保守派辺りに書きましたが、改めて箇条書きにすると、

  • コイルに電圧を掛けると電流が流れようとする。

  • 電流が流れる=磁界が発生する。

  • 磁界は保守的で変化を嫌うので、電流が流れないように反抗する。

  • 電圧を掛けた瞬間から遅れて電流が流れだす。

という話でした。
では、そんな性質を持つコイルに交流電圧を掛けるとどうなるのでしょうか。これは、

電圧の波形に対して90°の遅れ位相で電流が流れる

ということが分かっています。グラフにすると次のような感じです。(珍しくExcelでグラフを作ってみました)

さて、コイルのΩ値(電圧÷電流の値)を求めようとしても、瞬間瞬間で値が全部変わってしまうので、瞬時値を取って計算することはできません。そこで、コイル(やコンデンサ)のように電圧と電流で位相が90°異なってしまう場合、

オーム値=電圧の実効値÷電流の実効値

で計算し、この値のことを抵抗とは区別して

リアクタンス

と呼んでいます。これは、電圧を掛けたことに対するリアクションとして電流が流れるとか、電流が流れたことに対するリアクションとして電圧が発生する、という意味あいを持っています。

「リアクション」というのは、暗黙のうちに時間差を伴った反応であることを意味した言葉です。例えば、舞台に芸人が出てきて何か面白いことをした場合、お客さんはリアクションとして必ず時間的に遅れて笑い出すはずです。何故なら、お客さんは面白いことを目で見て、脳内で理解して、あ、これは面白い!と思って、その後で笑い出すからです。
もし、芸人が何かの芸を披露した瞬間に時間差なく笑いだす人がいたら、それはサクラですよね。(笑)

コイルの大きさであるインダクタンスLと、ある周波数fに対するリアクタンスの関係は、

で計算することができます。単位はΩです。

では、コイルに掛かった電圧×コイルに流れる電流、つまり電力はどこに行ってしまうのでしょうか?それは、コイルの電圧と電流のグラフを見れば分かります。

このように、電圧と電流の位相が90°ずれるということは、

電力流入 → 電力流出 → 電力流入 → 電力流出 → 電力流入

を1/4周期ずつ繰り返しているということが分かります。つまり、

コイルは、1/4周期で流入する電力を磁気エネルギーとして蓄え、次の1/4周期で磁気エネルギーから電力を作り出して放出し、次の1/4周期でまた流入する電力を蓄え、そして放出…を繰り返しているので、コイル自身は電力を消費しない

という事なんですね。
このように、位相差を考えず、素子に掛かる交流電圧と素子に流れる電流を掛けた値のことを皮相電力と呼び、コイルのように受け取った電力を全部吐き出すだけで全く消費されない電力のことを無効電力と呼んでいます。コイルの場合、時間的に電圧よりも電流のほうが遅れて流れるため、「遅れ無効電力」と呼ぶこともあります。
コイルによって吐き出された電力は、発電機の方に戻っていきます。つまり、無効電力が存在すると、発電機と負荷との間で電力のキャッチボールが起こってしまうわけです。送電線が完全にゼロΩで、変圧器も効率100%であればそれほど気にならないのかもしれませんが、発電機と負荷の間を往復する電力は、往復するたびに電線の抵抗や変圧器の損失で無駄になってしまうので、発送電側としては、無効電力は非常に嬉しくない現象です。
したがって、このような場合は「力率改善」を行うのですが、それはコンデンサの交流に対する挙動のお話の後にしましょう。

以上。


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