電気のおはなしその13・電位とはなにか(その1)
乾電池を眺めています。乾電池の+端子とー端子の間には1.5Vの電圧が発生しています。これをひたすら眺めていたら、何か役に立つことが起きるでしょうか?
コンセントを眺めています。コンセントの左右の電極の間には交流100Vの電圧が掛かっています。これをひたすら眺めていたら、何か役に立つことが起きるでしょうか?
…はい、電圧が発生しているだけでは何の役にも立ちません。人間が電気から何かの恩恵(熱が出る、光が出る、回転力が出る、など)を受けるためには、必ず電流が流れる必要があります。ときどき、
と聞かれることがありますが、答えは「電流」です。
これまでに書いてきたように、電流の正体は電子の流れです。電子が流れるためには、電子に対してクーロン力などの力を与えて、その力によって加速させ、そして移動させていくという段取りが必要です。これは「ある力を掛けて、ある距離だけ移動させる」こと、すなわち物理学で言う仕事そのものなのです。
さて、このときの「ある力」について見ていくことにしましょう。
ある電界が存在している空間の中で、ほかの電荷を移動させることを考えます。A地点にある電荷に対して、外部から力を加え、電界による反発力に逆らってB地点まで電荷Q2を持っていくとします。
このとき、外部から電荷Q2を押して移動したN君は、A地点からB地点までの間に、電荷Q2を移動させるために必要な力と、A地点からB地点までの距離を掛けた値、すなわち「クーロン力×移動距離」だけの仕事をしたことになります。
さて、B地点まで移動させた電荷Q2にK君を縛り付けて手を放します。するとK君は、クーロン力によって反発し、移動していく電荷Q2に引きずられて一緒に加速していきます。どんどん加速した電荷Q2とK君はA地点まで移動し、A地点で急に電荷Q2が停止すると同時に、電子とK君をつないでいるロープが切れたとします。
するとどうなるでしょうか。K君は放り出されてそのままどこかに飛んでいくことになります。
この一連の動作を考えると、
N君が電荷Q2に対して、A地点からB地点まで移動させる仕事をした。
電荷Q2は、N君から加えられた仕事を、「A地点とB地点における、クーロン力の差」という形で貯め込んだ。
K君は、仕事を貯め込んだ電荷Q2の反発力によって引きずられ、B地点からA地点に移動するまでの間に「力×距離」という形で仕事を移された
ということになります。つまり、N君が電荷Q2に加えた仕事が、間接的にK君に移されたわけです。
なお、A地点にある電荷Q2に比べ、B地点にある電荷Q2は、くくりつけたK君を移動させるだけのパワー(=仕事)を貯め込んだと考えることができます。この、「位置が変わることによって貯め込んだパワー」のことを「位置エネルギー」とか「ポテンシャルエネルギー」などと呼んでいます。
すごいパワーを持った人のことを「アイツはポテンシャルが高い」なんて言うことがありますが、実は物理的に正しい使い方です。
この一連の作業を行う場合、N君がA地点からB地点まで移動させるために必要な力は、Q1とQ2の電荷量の積に比例し、距離の2乗に反比例します。そこで、一般化しやすくするために、
を考えます。これを電位差と呼びます。
電位ではなく電位「差」となっているのは、A地点でもB地点でも、電荷Q1からの電界が存在しているためで、もし電荷Q1からの電界がゼロである点があれば、その点を電位ゼロとして基準の位置となり得ることができます。
電荷Q1からの電界は、次の式で求めることができました。
この電界Eの値がゼロになるのは、距離rが無限大になる場所、つまり
ということになります。(そういえば「まだ向こう」を「マダムヤン」ってインスタントラーメンに置き換えて子供の頃に歌ってたな。マダムヤンっていつの間にか無くなったね)
大学で電磁気学を勉強するとき、電界の次にこの電位の定義が出てきますが、その基準点が「無限遠」である理由はコレだったわけですね。
ちょっと長くなってきたので、一旦ここまでにしますね。
本当は、次に積分の話をしないといけないんですけどもね。
以上。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?