電気のおはなしその25・テブナンの定理とノートンの定理
いきなり質問から始めまーす。
いかがでしょうか。
恐らく、一番最初に思いつくのは、次のような回路ではないでしょうか。
しかし、もうひとつの答えも考えられます。それは、4Aの電流源と、その並列に6Ωが接続された、次のような回路です。
電流源というのは聞きなれないかもしれませんが、
のことです。
さて、これは何を言いたいんだ?という話ですが、
ということなのです。これも例によって線形回路において成り立つ法則で、
と呼んでいます。
これも、例題を挙げると分かりやすいので、前回・前々回と同じ問題を取り上げます。
このような問題において、回路中のどこか2端子を切り出して、それを「電圧源+直列抵抗」もしくは「電流源+並列抵抗」に置き換えることにより、回路の挙動が大変簡単に求めやすくなる、という方向性で解いていくわけですね。
では手始めに、この部分を切り離して考えます。
まず、この2端子を開放した場合の電圧を求めます。これは、「60Vの電池の+端子~40Ω~40Ω~60Vの電池の-端子」と接続された回路のうち2本目の40Ωに発生する電圧を求めるだけの回路ですから、これは30Vであることがすぐに分かります。
次に短絡時の電流ですが、
これは「60Vの電池の+端子~40Ω~60Vの電池の-端子」と接続された回路ですから、60÷40で1.5Aであることがすぐに求まります。
したがって、
ですから、次のように置き換えることができます。
同様に、この部分の2端子を取り出します。
この2端子を開放した場合の電圧は、「80Vの電池の+端子~60Ω~60Ω~80Vの電池の-端子」と接続された回路のうち2本目の60Ωに発生する電圧を求めるだけの回路ですから、これは40Vであることがすぐに分かります。
次に短絡時の電流ですが、これは「80Vの電池の+端子~60Ω~80Vの電池の-端子」と接続された回路ですから、80÷60で(4/3)Aであることがすぐに求まります。
したがって、
ですから、次のように置き換えることができます。
さて、このようにして置き換えた左右の回路を元の回路に戻すと、次のような回路になります。
これは、
ですから、電池の電圧を相殺して10V、そして60Ωが接続されただけの回路
ですから、10Ωに流れる電流は、
と超簡単に求めることができます。
このようにして、回路内のうち、
というのが、テブナンの定理もしくはノートンの定理を用いた回路解析です。
せっかくなので、定電流源が登場する問題を一問行きましょう。
まず、問題中のRを切り離して2端子を取り出し、スイッチSを閉じた回路を考えます。開放時の電圧を求めると、定電流源からの電流は1Ωを左→右と流れるため、1Ωの両端の電圧は右側を+として2Vですから、10Vの電圧源と足した12Vが発生していることが求まります。
次に短絡時の電流を求めると、12Aの電流が流れることが求まります。
以上より、
ですから、テブナンの等価回路を求めると、
となります。
出題文を見ると、
とのことなので、Sを閉じる前に流れる電流を求めます。これは、単に2Aの電流源にRが接続されただけの回路なので、2Aと一瞬で求まります。これより、Sを閉じた後に流れる電流は4Aということが分かります。
12Vで4A流れる抵抗は3Ω、そのうち1Ωは既に存在しているので、2Ωが答えと求まります。
なお、この問題は、キルヒホッフの電圧則・電流則からも容易に求まります。
出題文の条件より、Sを閉じた場合に10Vの電源からRに流れる電流は2Aですから、Rの両端の電圧は、10Vから2Vを引いた8Vです。以上より、
ですので2Ωです。
この年に電験3種を受験された方から、「理論の問7、メチャクチャ簡単な回路だったんだけど考え方が分からなくて解けなかった」と言われたことがあります。
そう、分かってしまえば簡単なんですが、最初はどういう段取りで解いたらいいか分からない問題って、格好の材料なんですよね。「目の付け所さえ分かれば解けるようになった」という積み重ねって、すごく重要なんじゃないのかな、と思う次第です。
電験3種の受験生は、オームの法則も何もかも皆目分からない、という人はほとんど居ないんです。いろいろな定理とか法則も、ある程度頭に入っている。でも、いざ初見の問題を見たときに、それをどう適用すれば答えが求まるかが分からない、という人が経験上多いと思うんですね。
でもそれは、もう7割方は分かっていて、あとは残りの3割さえ分かれば…という段階だと思います。そこをどうサポートできるか、というのが私の最も重視するポイント、なんていうと偉そうですが、おぼろげながらそんなことを考えながら書いてみました。
そうそう、余談ですが、テブナンの定理は、「鳳-テブナンの定理」とも呼ばれます。これは、この理論が成立するということを証明したテブナンと並び、それとは別に独自に同じ定理を証明し、さらには交流回路においても成立するということを証明した鳳秀太郎の名を冠したものなんですね。
あ、もう一個余談。電気の教科書などでは、テブナンの定理の公式として
とか書いてあることがあります。このrは2端子から回路内を見た等価抵抗値、Rは外部に接続する抵抗値、Eは端子開放時の電圧で、確かにそれはその通りになるのですが、この公式を暗記することがテブナンの定理の本質ではないと思います。本質的には、これまでに書いたように、「複雑な回路から取り出した2端子を開放・短絡した時の挙動が全く同じである簡易な回路に置き換えることで、回路全体を簡単にし、解析しやすくする」点かなと思います。「外部から見た挙動が同じ」っていうのがポイントですね。Y-Δ変換なんかもまさにそれですからね。
なお、余力がある方は、ノートンの定理(電流源+並列抵抗)に置き換えてこれらの問題を解いてみてもいいでしょう。必ず同じ答えが求まるはずです。
以上。