電気のおはなしその78・伝送線路(1)特性インピーダンス

電気は、1秒間に地球7周半、約30万kmの速さで伝わります。
ということは、長さ30万kmの2本の電線を用意して、その一端に電池、他端に電球を接続すれば、スイッチを入れてから1秒後に電球が点くし、スイッチを切ってから1秒間は電球が点きっぱなしになるということが分かります。

ところで、このときに電池を接続した端は、30万km先に電球がつながっていることは知りません。もしかしたら何も繋がっていないかもしれないし、または短絡しているかもしれません。しかし、2本の電線があって電圧を掛けたのだから、何らかの電流が流れ込んでいくはずです。

では、この電流は何アンペアなのでしょうか?

これは、「電線の太さや材質、構造などによって異なる」のが正解です。これを求めるためには、電線を理想的な電線(抵抗分ゼロ、リアクタンス分ゼロ、静電容量ゼロ、線の間の絶縁抵抗無限大)と考えていては求まらず、抵抗分野リアクタンス、線間の静電容量、線間の絶縁抵抗などの値を用いて回路方程式を立て、そこから電圧・電流の関係を求める必要があります。
このような考え方の回路を分布定数回路といい、それに対して単純化した回路を集中定数回路と呼んでいます。本質的に、全ての回路は分布定数回路として振る舞いますが、細かい点は無視して簡単化した集中定数回路と見なして「手抜き」をしているのが、いわゆる一般的な回路図としての回路です。

電気信号を送るための線路として、同軸ケーブルや並行ケーブルなどが使われますが、このような分布定数回路としての取り扱いが必要な線路のことを伝送線路と呼んだりしています。

分布定数回路の計算はとても難しいので省略しますが、身近な例で例えて言えば、「水道管の太さ」に対応する概念です。水道管に水を流すとき、水道管が細いほど流れていく水の量は少なくなります。もし多くの量の水を流したければ、圧力を上げて多くの水を押し込みます。
逆に太い水道管の場合、あまり水圧を掛けなくても大量の水が流れ込んでいきます。これらは伝送線路も同じで、特性インピーダンスが低い伝送線路は、低い電圧でも大きな電流が流れ込んでいきます。

流れていった先にあるのが抵抗なのか、短絡なのか、それとも解放されて切れているのか、流れ込んだ電流は先端に行くまで分からない、というのがミソです。

では、流れていった先が閉塞されていたり、あるいは開放されていた水道管の水はどうなるでしょうか。開放されていれば、水は全量流れ出して終わりですが、閉塞されていた場合は壁にぶつかって大きな衝撃が発生します。水道の栓を急に締めたとき「ガツン」と音がすることがありますが(ウォーターハンマーなんて呼びます)、あれはこの衝撃音です。

電気信号を伝える伝送線路でも、実は同じことが起こります。終端に何が繋がっているか分からない状態で伝わっていった電気信号は、終端が開放されていればそのまま流出…することは出来ないので、来た道をそのまま帰っていきます。終端が短絡されていても同様で、その先に流れていくことはなく、来た道に折り返していきます。
折り返す信号がゼロとなる条件は、伝送線路の特性インピーダンスと同じ値の負荷が接続されることです。これを「インピーダンスマッチングを取る」というわけです。

今夜はこの辺で。

以上。

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