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電気のおはなしその36・真空管(1)直熱管と傍熱管

…というわけで。話の段取り上、何故か真空管の話になってしまいました。
真空管の基本的な原理はエジソン効果で、

電球のフィラメントからは、加熱によって電子が放出されている

という現象に気が付いたことから始まりました。
これは、電球を使用していると、段々とガラスの内側が汚れてくるという現象の理由は一体何なのか?ということを調べているうちに発見したということです。今でも、蛍光灯を長時間使用していると、電球の口金の付近が黒くなってきて、やがて点灯しなくなってしまいます。これも基本的には同じ原理です。

直熱管

図1・直熱管の基本的な構造

初期の真空管は、真空のガラス容器の中に電球のようなフィラメントを配置し、フィラメントに電流を流して赤熱させることで熱電子を放出していました。このようなタイプの真空管を直熱管と呼んでいます。直熱管の長所と短所をざっと挙げると、次のようになります。

直熱管の長所(利点)

  • フィラメントを点灯させれば即座に動作する。

  • 構造が簡単で製造が容易。

  • 傍熱管に比べると、フィラメント/ヒーターの加熱電力に対する電子放出効率は良い。

直熱管の短所(欠点)

  • フィラメントを交流で点灯すると、放出される熱電子がフィラメント電流の影響を受け、交流で変調されてしまう。

  • フィラメントから直接電子を放出させるため、寿命が短い(フィラメントが切れやすい)傾向がある。

  • フィラメントの機械的な位置決めがしにくいため、機械的振動によって特性が変わりやすい。

  • フィラメントが振動しやすいため、極端に電極をフィラメントに近づけるような真空管を作ることができず、増幅度が高い真空管を作ることができない。

  • 特性のばらつきが大きい。

というわけで、基本的には初期の真空管が直熱管ということになります。年代で言えば、戦前の真空管のうちでも、特に初期のものがこのタイプでした。
初期のラジオなどは、大きなバッテリーを電源としていましたが、やがて電力網が地方にも広がるにしたがってコンセントの交流電力でラジオを聴いたりしたいという要求が高まりました。しかし、短所の中でもフィラメントを交流点火すると信号がフィラメント電流で変調されてしまうという点が致命的な欠点となって実用にならず、次に話す傍熱管の開発へとつながっていきました。フィラメントの交流点灯を実際にやってみると分りますが、音声信号にブーンという50/60Hzの信号(これのことを、ハム音と言います)が強力に乗ってしまい、とてもじゃないけど音を奇麗に聴くことはできません。

もっとも、オーディオの世界で2A3などの直熱管を使ったアンプを製作する際、最終段の電力用真空管はハムバランサーという抵抗を設置してハム音を極小に追い込むという手段もありますが、扱う信号電圧が小さい初段の真空管を交流で点火してしまうと、ハムバランサーなど入れても全く無意味なほど大きなハム音が出てきます。どのみち、交流電源を使用する限り、直熱管だけではどうにもならないのです。

傍熱管

図2・傍熱管の基本的な構造

傍熱管は、カソード電極として金属製の筒を用意し、その筒の中に加熱用のヒーターを挿入して筒を赤熱させることでカソードから熱電子を放出させるものです。こうすることにより、交流でカソードを加熱しても、金属製の筒の熱慣性によってカソードから発せられる熱電子に50/60Hzの変調が掛かることが無くなり、飛躍的に特性の良い真空管を製造することができるようになったわけです。第二次大戦の少し前から戦中・戦後を通し、真空管の最終期までこのタイプが使われ続けました。傍熱管の利点と欠点は次の通りです。

傍熱管の長所(利点)

  • カソードを交流点火してもハム音が出ない。

  • 寿命が長い。電話などの通信用途として特に長寿命化した製品は、10万時間といったレベルの寿命も実現している。

  • 機械的振動に強い。

  • 位置決めを正確にすることができるので、様々な特性の真空管を製造することができる。

  • 特性のばらつきが小さい。

  • ヒーターとカソードを電気的に絶縁することができるため、回路を設計する際の制約が減って合理的な回路を設計しやすい。

傍熱管の短所(欠点)

  • 原理上、ヒーターを点火してから動作するまでに時間が掛かる。(TVなどの民生用製品は、起動から動作まで11秒程度と規格化されました)

  • 構造が複雑で製造が大変。

  • ヒーター電力に対するカソード電子放出量の点においては効率が悪い。

このように、スイッチONから動作開始までに時間が掛かってしまうという欠点を除き、圧倒的に傍熱管の方が優れているため、特殊な例を除いて傍熱管が使われ続けることになりました。

「特殊な例」って何?という点ですが、ひとつは電池を使ったポータブルラジオ用の真空管です。これはトランジスタラジオが開発される直前の数年間だけの話ですが、真空管を使っているにもかかわらず持ち運びができる小型ラジオが製造されて大々的に輸出された時期があります。このとき、傍熱管を使うとヒーター電力ですぐに電池が無くなってしまうため、電池用の直熱管が製造されて使われました。しかし、すぐに全ての特性で勝るトランジスタラジオが実用化されたため、わずか数年間の徒花で終わりました。
もう一つの例は、航空機用など携帯用無線機の送信用真空管です。エネルギーが限られている航空機の上では、送信していないのに送信用真空管を稼働させ続けているのは電力の無駄となり、とはいえ傍熱管では送信開始から電波が出るまで余りにも時間が掛かりすぎるため、あえて直熱管とした送信用電力真空管も製造されました。しかし、あまり利用されることは無かったようです。

調子よく書き進めてきたら、もう2300文字。この位にしておきましょうね。最後に、実物の写真に注釈をつけたものを貼っておきますね。

図3・実物の電極配置

以上。

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