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電気のおはなしその43・コイル(2)磁界は保守派

前回、コイルっていうのは電線をグルグル巻いたものだよー、という話をしました。そして、電流を流すと磁石になるというものでしたね。では、その続きの話に行きますよ。

コイルに電池を接続して電流を流す瞬間を考えます。この回路において、抵抗Rは電線の内部抵抗や電池の内部にある抵抗分を代表して一個の抵抗で表したもの、ということにしますね。
では、スイッチON!にした瞬間、回路に流れる電流はどうなるでしょうか?

図1・RL直列回路

実は、もう超メチャクチャウルトラ級に大切な話なんですけれども、なんとスイッチを入れた瞬間、回路には電流が流れないんですね。つまり、電流はゼロです。ゼロ。
でも、これはおかしいと思いませんか?だって、電流を流そうとする圧力の基である電圧は電池の中にある、そしてスイッチ・抵抗・コイルを通じて電流が流れる経路が出来上がっている。なのに、スイッチを入れた瞬間に電流が流れない。どゆこと?

実は、これはコイルの作用なんですね。
電磁石の実験でおなじみの通り、コイルに電流が流れると、磁界が発生して電磁石になります。コイルに電流が流れると必ずその周囲には磁界が発生するのですが、

磁界はとっても保守的で、磁界が発生していない状態から磁界を増やそうとすると、電磁石は磁界が増えない方向に抵抗します。逆に、既に磁界が発生している場所の磁界を取り去ろうとすると、今度は磁界が減らない方向に抵抗を試みます。磁界はメチャクチャ保守派なんです。

これはもう、フォントサイズをめちゃくちゃ大きくして叫びたい話。

それまで電流が流れていなかったコイルに電圧を掛けた瞬間、コイルは電流を流してしまうと磁界が増加してしまうため、電流が流れないように全力で抵抗します。具体的にどう抵抗するかというと、コイルに与えられる電池の電圧と同じ大きさの逆電圧を作り出し、回路に電流が流れないようにするんですね。
しかし、これがいつまでも続くわけはなく、次第に電圧の勢いに押されて電流が増加していきます。最終的にどうなるかというと、コイルは直流の電源に対してゼロ、つまり単なる電線と同じように振る舞います。
以上のような経過を、横軸にスイッチを入れてからの時間、縦軸に回路に流れる電流を描いてグラフにすると、次のように表すことができます。

図2・図1の回路に流れる電流をグラフにしたもの

はい、これを見てもお分かりのように、回路の中にコイルが存在すると、回路各部の電圧や電流などは、スイッチを入れてからの時間経過を考慮しないと求めることができない、ということになるんですね。この「時間を考慮に入れないといけない」というのは「過渡現象」と呼ぶんですが、この辺りが電気の勉強を始めた人のうち多くの割合の人が挫折してしまうポイントではないかと思っています。
このグラフを論理的に求めるためには、回路に関する微分方程式を作り、その方程式を解くことで求められるのですが、その解きかたなどは、電験3種…いや、電験3種ですら出てこない、電験2種レベルの話になってしまいますし、私が今回お話ししたいのは、そういう数学的に厳密な話ではなく、定性的に「この素子は、こういう性質を持っているんだよ」ということですのでご安心?くださいませ。

改めまして、今回絶対に知っておいて欲しいことは、次の通りです。

  • コイルは電流を流すと電磁石になる。

  • 磁界はとても保守的なので、電磁石に電池をつないだ瞬間、「電流なんて流すものか!」と全力で抵抗するので電流は流れない。

  • でも、電圧の勢いに負けて電流は徐々に増加、最終的にはゼロΩの単なる電線と同じになり、可能な限りの最大の電流を流す状態になって落ち着く。

さて、「コイルに電流を流そうとすると、最初は全力で抵抗する」という話はしましたが、それでは既に大量の電流が流れている状態から電流を切断しようとすると何が起こるのか?については、次の回の話にしましょうね。

以上。


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