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電気のおはなしその70・人間は電気で動いている(1)

最近話が先鋭化しすぎている気がしたので、今回はベクトルを変えますよ。

人間は電気で動いている、というのは何となく知っている、という方が多いでしょう。代表的な例が心電図です。健康診断の時に、胸に電極を張り付けられて電気を測定しますが、あれは心臓を動かす筋肉に指令を送る神経の電気を測定しているわけです。

人間の筋肉は、心臓はもちろん、腕や足、表情などを作り出しますが、これらは全て力が発生する現象です。電気のおはなしその4・力と加速と質量と(その1)あたりでもお話しましたが、力というのは質量を持った物体に対して加速度を生み出す作用です。人体でいえば、血液という物体に対して筋肉の収縮という作用を使って加速度を与え、人体の各部まで巡らせている、ということになります。これが力学的な観点から見た心臓の作用です。

では、筋肉は、神経を伝わってくる電気から、どうやって力を生み出しているのでしょうか?
電気のおはなしその11・クーロンの法則と電場(電界)の定義で書いたのは、電荷どうしの作用によって力を生み出すクーロン力です。
また、電気のおはなしその65・クーロン力とローレンツ力&ブラウン管TVの原理で書いたのは、電流と磁界の相互作用で生み出すローレンツ力です。

では、どちらが正解かというと、クーロン力によって筋肉は力を生み出しています。つまり、人間の筋肉は静電気で動いているわけです。

人間は静電気で動いています。

そう、あんまり意識したことがない人が多いと思うんですが、神経で伝達してきた電気を力に変える、ということは電荷間の吸引力であるクーロン力を使っているんですね。人間の体は電動だったんです。

もっとも、クーロン力自体はありふれているものです。例えば、原子核と電子の間に働く力はクーロン力ですし、原子同士の結合にも多くの場合クーロン力が働いています。実際の筋肉の動作原理は、今現在でも研究が続けられているほど非常に複雑なものですが、タンパク質どうしの働きによって力が生み出されることが分かっています。タンパク質は一種の高分子ですから、原子が大量に結合して作られている高分子が力を発生する作用がクーロン力であること自体、何ら特別でも不思議なことでもないわけですね。

脳から筋肉に指令を伝える神経は、いわば電線の役割をするわけですが、実際の電線のように銅とかアルミニウムの電線というわけではありません。神経はタンパク質から作られている繊維ですが、その内部と外部に電位差を持ち、その電位差が刺激によって反転することで電気パルスを伝えています
神経線維が内部と外部で電位差を作る仕組みは、Na-Kポンプという巧妙な機構が組み込まれているからで、何故そんなものが出来たのか?地球の何十億年の歴史の中で、その辺にあった元素同士がくっついて、たまたま何らかの有機物が作られて、それから気の遠くなるような時間を経て、今我々のような生物が地球上に誕生し、そして「意識」「記憶」を持って活動している、というのは本当に不思議で、なるほど世界は神が作ったのだ、と納得してしまいます。

次は人間の脳の働きの話をしようと思いましたが、ちょっと長くなったので分けることにします。

図1・「学研の図鑑 電気」より

生物学も面白いんですよね。

以上。

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