電気のおはなしその79・伝送線路(2)空間の特性インピーダンス
前回、電気信号を伝える電線(同軸ケーブルや並行フィーダーなど)の特性インピーダンスは、水道管でいう所の管径に相当する概念で、入力側にある電圧を与えたとき、線路に流れ込んでいく電流の値は、その構造で決まる特性インピーダンスに依存するという話をしました。
ところで、この水でいえば水圧に対する水流量、電気でいえば電圧に対する電流の比である特性インピーダンスは、空間を伝わる電波に対しても定義することができます。何故なら、空間を伝わる電波というのは、電界が磁界を作り、磁界が電界を作る…という相互作用によって伝搬していくわけですが、磁界は電流を作り、電流は磁界を作るという相互作用を持ちますから、これは言い換えれば「電波は、空間を電圧と電流が伝わっていく現象」と考えることができるからですね。
「電流というのは電子の流れ。真空中には電子が無いから、電流なんて流れるはずがない」と思ってしまうのですが、電波伝搬のように、電界と磁界が相互作用することによって流れる電流は「変位電流」と呼び、これも(電子が存在していないのですが)電流の一種と考えられています。
この、電波に対する空間のインピーダンスは、約366Ω(120π)と求められています。つまり、電磁波に限らず光なども、この120πの伝搬インピーダンスを持つ空間を伝わって届いていることになります。
伝送線路と上手くエネルギーをやり取りするためには、インピーダンスマッチングが重要だという話を前回しました。水道管で送水する場合であれば、径の異なる水道管をジョイントなしで差し込めば、すき間から水が漏れてしまうのと同じ原理です。
空間に電磁波を放出したり、空間を伝わる電磁波を補足する素子はアンテナと言います。アンテナの語源は、昆虫などの触覚に由来しています。
アンテナは、出来るだけ効率よく電磁波を送受信する必要があるわけですが、これは「空間を伝わる電磁波のインピーダンスである120πと、アンテナからの引き込み線である同軸ケーブルのインピーダンス(50Ωや75Ωが主流)を上手くマッチングさせる装置」と考えることもできるわけです。
こうして考えると、普段何気なく当たり前に接している装置などであっても、実は掘り下げると非常に深い理論によって支えられているのだ、ということに気が付きます。これは、以前「アメリカ版大学生物学の教科書」を読んだときにも非常に強く思いました。人間の体がいかに絶妙なバランスの上に成り立っているのか、ということを・・・。
というわけで、今日はこの辺で。
以上。
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