モモンガの1日(11)
綿をほぐしたような雲が、月を透かしながら
瞬く間に過ぎてゆく。
その向こう側、月のまわりはぽっかりと晴れていて
離れたところで囲む雲はしんと微動だにしない。
モモンガがいる木の上も風は止んでいて、時おりそよ風が吹くばかりだった。
あの風は中空にだけ強く吹いているのだった。
モモンガは、忙しく流れ去ってゆくすす色の雲を目で追って、思った。
「ぼんやり生きていたいと思うのは、どうしてこうもむずかしいのだろう」
そして吐きだした息とともに、
「なんだか、すべて忘れたいなあ」
とつぶやいた。
辛かったこと、いやだったことだけじゃなくて、楽しかったことも嬉しかったことも。
ぜんぶ、ぜんぶ。
「すべて忘れたいなあ」
そのとき、以前もここで月を見上げながら同じ事を考えた自分を思い出した。
「忘れたいと思ったことも忘れていたなんて」
そう気づいて思わずふふふ、と笑った。
すべて忘れたいと願いながら、実際には、いつも何かしらに悩んでいたかっただけなのかもしれない。
(つづく)