モモンガの1日(4)
「さて」
モモンガは立ち上がって今日やることを考えた。
水汲み、洗濯、果実の汚れを落とす、部屋の片付け。
あと、柱時計の巻きなおし。
「ああ、いい天気だ」
玄関口に差し込んでいる日差しをたどって空を見上げた。
こんな日は外を自由に飛び回りたくなるものだ。部屋で雑用を終わらせるだけでは気が滅入ってしまう。
モモンガは早く水を汲んできて洗濯を済まそうと思ったが、水桶が見当たらない。
最近はいつもこうなのだ。
ぼんやりに拍車がかかっている。
頭のなかではいろんなことが同時に動き出してしまう。
イタチのシッポみたいである。
そのひとつひとつの動きに目移りしていると、手元がおろそかになる。
まとまらない考えをひとつずつ追いかけ回してなだめていると、何をしていたのか忘れている。
そんな調子で水桶もポンとどこかに置いたのだろう。
部屋のなかにあるのは確かだから、まずはそれを探し出さないといけない。
モモンガは手近なところをひっくり返してみたりした。
しかし「洗濯物がこんなところにもあった」「森の図書館から借りている本を返しに行かなくちゃ」と思ううち、
気づけば玄関に立って水桶も持たず、手ぶらで出かけようとしていた。
「なんでだろうか」
モモンガは自分に対して思う。不思議と悲しくはない。
ただ、悲しくないのに息を吸うのが少し苦しくなる。
思わず目を伏せてしまう。
のどの奥がぎゅうっと押しつぶされる感じがして、お腹の底がじりじりと熱くなる。
「なんでなんだろうか」
こんなときにはイタチのシッポも息をひそめて、モモンガがまた行動し始めるのをひっそりと待っている。
「あったあった」
まとめておいた洗濯物の下に水桶はあった。目に入っていたはずなのに、シッポに気を取られているときには見えなくなってしまうようだ。
暖かな日差しのもと、モモンガは水を汲みに出た。
(つづく)