電車
狭い踏切 小雨のなか
カーブを曲がってくる電車
ヘッドライトが橙色に雨粒を照らし
傘の柄を舐めるように光らせて
ぐわり、と通り過ぎていった
その一瞬なぜか
あらゆる音は気配を消して
耳元で打つ雨音も
踏切音もない世界
車内の白い光が真横に流れてゆく
腰かけた乗客のうしろ姿
がらんとした車内にぽつりぽつり
次の到着駅を待っている
最後尾は来てほしくなかった
真横に流れる白い光にずっと
懐かしい目を向けていたかった
暖かく生温い風
けれども車両の最後尾は あたりまえに来て
あたりまえの目でその背を見送った
踏切音は止み
あらゆる音が再開し
狭い踏切を私はわたる
雨に濡れた道
まだ遠くに音が聴こえる