モモンガの1日(7)
「そうなんですね」
モモンガははじめて知ったという顔をした。
けれど毎回かならず読んでいて、
待ち遠しにしていたので知っていた。
なぜいまはじめて知ったようにふるまったのだろう、とモモンガは思った。
たまにこういうことをしてしまう。
シマフクロウなら、きっとわかってくれるのに。
かわらばんは家でじっくり読むことにして、図書館をあとにした。
空はすっかり夕焼けていた。
ぶ厚い雲はどこかへ行って、
薄くかすれた雲が夕陽に染まってあかくなっていた。
「茜色っていうんだよ」
あの色の名前をだれかに教えてもらった気がするけれど、
それがだれだったのかを思い出せなかった。
でもそれは思い出せなくてもいいような気がした。
一段と澄んだ風がさらさらという葉擦れの音をたてる。
かすむ青と茜色のはざまを眺めながら
軽快に木々を蹴って飛び移っていくと、
ある枝からジャンプした直後に何かがひゅうと落ちた気がした。
モモンガが飛びながら後ろをふりかえると
はらはらと一枚の紙が踊るように地面に落ちていくのが見えた。
「しまった」
森のかわらばんを落としたらしい。
(つづく)