モモンガの1日(12)
息を吸いこむと、涼しい風が鼻のおくを深く貫いて
脳みその裏側まで撫でていくように感じられた。
その風が洗いながしていったあとの空洞に、鮮やかな色が流れ込んでくるのをモモンガは感じた。
次から次へといろんな色が混ざりあって流れ込んでくる。それが見たことのない色を成して、のどもとからお腹の底へとゆっくりと垂れていった。
この気持ちはなんだろう。どうしたらいいのだろう。
モモンガはその熱い感触にどうしていいのかわからなくなった。
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月は静かに浮かんでいる。
そこにねずみの顔が重なった気がして、とんびの鳴き声が聴こえた気がして、
じっと耳をすませていた。
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夜がすっかりふけた頃、部屋に戻ったモモンガはふくらんだ抽斗をごそごそと探った。
「たしかここにあったはず」
探している便箋は、しかしなかなか見つからず、仕方がないので“森のかわらばん”を裏にしてペンを持った。
「ねずみさんへ」
出だしにそう書きつけた。
これを明日シマフクロウのところへ持っていって、渡してくれるように頼んでみよう。
何を書きたいのかははっきり決まっていなかったから
書いたり消したりを何度も繰り返しながら、お腹の底の熱い色をペン先に込めて書いていった。
途中で部屋のすみのひしゃげた枕に目をやった。
そして別の紙の裏に「リスさんへ」と書いたが、しばらく考えてから紙を丸めた。
「あれは直接返そう」
いつになるかわからないけれど、そのときのためにきれいに洗って形を整え直しておくことくらいはできるはずだ。
モモンガはまたかわらばんの裏を引き寄せる。
「これはやっぱり便箋に書きたいなあ」
書きながらそう思って、どんな便箋がいいかを想像した。
森の木々は普段と変わらず、風にそよいでいる。
月は位置を変え、その明かりはいつの間にかモモンガの家の玄関にも差し込んでいた。
(おわり)