【プロローグ】結婚してください
笑えそうもない今の私
10年後の未来の自分になったつもりで、現在の自分へ励ましの手紙を書いた。
「きっとうまくいくから、大丈夫」
婚活に疲れた38歳の私の妄想と希望と願いを込めて手紙を書き終えると、これっぽっちも希望の片鱗が見当たらないのに、きっと10年後の私は笑顔だろう。そんな気がしてきた。
だけど、もう頑張れない。婚活はやめようと決めた。
最後にもうひとりだけ会ってみたら
1年と数カ月入会していた結婚相談所に退会を申し出ると、担当者の厚意で急遽一人の男性を紹介してくれた。彼が結婚相談所から初めて紹介されたのが私で、私が結婚相談所から最後に紹介されたのが彼。それぞれの都合が合わず、2週間後に会うことになった。会うまでの間、お互いのことを何も知らない私たちは自己紹介を兼ねてメッセージのやりとりをはじめた。
どうやらヲタクっぽい
これがメッセージから感じた彼の第一印象。
担当者から彼について聞いていたことは、氏名、年齢(私と同じ年)、私の住んでいる街から車で3時間くらいの微妙な遠距離の都市在住、以上。
突然の成り行きだから後々プロフィールを見せてもらえばいいと思っていたのに、彼は結婚相談所に入会したばかりでまだプロフィールが出来上がっていないというではないか。ご職業は?年収は?これでは知りたいことがわからない!
はたと我に返った。そうだ、婚活やめるんだ。プロフィールは、どうでもいいや。
男性ばかりの職場で「仕事は天職」というくらい充実した仕事漬けの毎日を送っているが、女性がニガテらしい。ここ数日、一日数往復メッセージをやりとりしてわかった。
「今、メッセージしている私も一応女子です・笑」と送信してみると、
「そうですね。すいません・笑」と返信が来た。
さあ、どうする?
「スマホでこんなにたくさんメッセージを送っていると、手が痛くなってきました」
それから数日後に届いたメッセージには、このようなことが書いてあった。
はい、キター!彼はどうするだろう?
メッセージのやりとりを通じてだんだんお互いの人となりがわかってくる。すると、だんだんお互いの自我もでてくる。
相手のせいにする人。結婚相談所のせいにする人。自分の不遇のせいにする人。何かのせいにしたために、出会った二人は別々の道をいく。婚活は、怒涛の如く未知と困難に遭遇する。これを共に乗り越えられないと、ご縁はご破算となる。
婚活に疲れ果て、婚活市場から退場を決めた私は、このことを痛いほど知っていた。だから、このあと彼がどうするのか知りたかった。
翌日、「Bluetoothのキーボードを買ってきました」とメッセージがきた。
何だ、それ?
ブルーハーツみたいなキーボードがあるとメッセージのやりとりが楽になるらしい。よくわからないが、この人、イイ人かもしれないと思った。
私はどうなの?
この一件で、気づいた。
これまでどうして私は婚活が上手くいかなかったのか?
それは、他人をとがめるくせに、自分の人生を他人任せにしていたからだ。
イイ人紹介してくれない、親身になってくれない、ご縁がなかったのは結婚相談所のせい。条件が悪い、見た目が好みじゃない、性格が合わない、結婚できないのは相手のせい。こんな私では、結婚できるわけがないと気づいた。
やっぱり彼は
約束の日、初対面の彼は髪の毛を真ん中から分けていた。
「キミ、横から分けたほうがいいよ」
すこしはさわやかに見えるよう、手を伸ばし彼の髪の分け目を変えてみた。
この気の良さそうな男性に幸あれ!
メッセージのやりとりから “どうやら”こんな感じの人だろうと妄想していた彼のイメージは、実際会うと“やっぱり” イメージ通りだった。
もう婚活地獄から抜け出す決心をした私は気楽なもの。婚活相手に好かれようなんて気はサラサラない。だから、これから熾烈な婚活市場にくりだす彼の為に、遺憾なく本音をぶちまけ頼まれもしないアドバイスをした。
彼は、素直にそれを受け止めた。
そして、彼の希望でまた会うことに。
2度目に会ったとき、彼は変わっていた。髪の毛の分け目が横になり、彼らしい自信があった。
そして、私たちは結婚した。
***
ねえ、どうして結婚したの?
無邪気で毒のある妹からの質問に、一瞬息のむ。
結婚していない妹は、結婚してたまに夫のグチを言う姉を不可解に思っている。だから、妹は重ねてこう問いかけてくる。
「結婚するまえ付き合っているときに、ヲタクだとかなんだとか、言動を見てわかっていたことじゃないの?それでも結婚しようと、どうして思えたの?」
しっくりくる答えを見つけられずにいると、未消化のこの問いが私の頭の片隅から何度も問いかけてくるようになった。
ある日、婚活しているときにこれは大切だと気づいたことを思い返してみた。
そして、思い出した
最初の結婚の決め手は、Bluetoothのキーボードだったのかもしれない。
これがフリック入力よりブラインドタッチのほうがお得意の彼の最適解だと理解できたとき、これからの人生をこの人と一緒に生きていけると思えた。
上手くは言えないけど、前向きに考えてとりあえずやってみたり、投げ出さないで最後まで粘り強く解決しようとする、自分の力で生き抜く彼のド根性が私の心に響いた。
結局、イイ条件でもイイ顔でもなく、イイ人柄の彼を私は結婚相手に選んだ。
感傷に浸っていると、ふと婚活していた10年前に書いた手紙のことを思い出した。
今、私にできることは何だろう?
考えてみよう。心の中であのときの私を抱きしめながら。
自分らしい結婚って、何だろう?
ぎりぎり30代(正確には40歳になる1週間前)に入籍した私自身のこじらせ婚活体験をつづりました。
世間的に見栄えのイイ条件をめぐる選択と競争ではなく、大切にしている価値観や譲れない一線などの自分らしく生きる自分らしい答えのほうが大切ではないか。
婚活という修羅の道をくぐり抜け、私はこのことに気づきました。
結婚とは?幸せとは?
あなたらしい答えが見つかることを、今の私は応援しています。