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ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)2024年度Q4決算
ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、J&J)は2024年度通期および第4四半期(Q4)の決算で予想を上回る結果を出しました。しかし、発表翌日には株価が1株あたり約143ドルに下落し、市場参加者の間でいくつかの不安材料が指摘されています。今回はQ4の詳細から、株価や今後の見通しに至るまでを整理してみましょう。
2024年度通期・Q4の主なポイント
売上高とEPS
通期売上高: 888億ドル(前年比+4.3%)
COVID-19ワクチンの売上減が見られたものの、通期では増収を確保。今後もほかのワクチンメーカー同様、呼吸器系ウイルスシーズンのスロースタートによる影響が懸念されます。通期EPS: 5.79ドル(前年比+11%)
EPSも2桁成長を示したことで、ウォール街予想との比較では良好な結果。Q4売上高: 220億ドル(前年比+5.3%)
Q4 EPS: 1.41ドル(前年比-17%)
第4四半期のみで見るとEPSが前年同期比で落ち込みました。
株価下落の要因
決算は好調な数値を示しつつも、株価は下落しました。その背景には以下のような懸念材料があります。
タルク(Talc)関連の訴訟問題
テキサス州での裁判が2月18日から始まり、最大で1か月ほど続く見通し。結果が原告有利となった場合の影響を市場は警戒している模様です。為替リスク
J&Jはグローバル展開する企業であるため、為替変動による影響が収益に及びやすく、今後もマイナス要因となる可能性があります。医療機器販売の伸び悩み
中国の経済減速や手術件数の減少などが医療機器の販売を圧迫し、収益の伸びに影響を与えています。
タルク訴訟の影響
訴訟の進捗
タルク製品にまつわる訴訟はJ&Jの成長余地を押し下げる一因となっています。テキサス州での審理が今後の企業イメージや財務にどう影響するかが注目点です。仮にJ&Jに有利な結果が出たとしても、原告側が控訴を行う可能性が高く、長期化の懸念は残ります。
アナリストの見方
JPモルガン: 判決の行方や破産手続きの扱いを注視するべきと指摘。
バンク・オブ・アメリカ・セキュリティーズ: 2025年の目標株価を166ドルから160ドルへ引き下え、依然としてタルク訴訟がリスクとして存在するとしています。
主要製品・パイプラインの現状
Stelara(ステラーラ)への影響
J&Jの主力製品である抗炎症薬「ステラーラ」に対して、今後はジェネリック医薬品の参入が見込まれます。さらに価格交渉力の大きいメディケア(アメリカ高齢者向け公的医療保険)との交渉も進んでおり、価格圧力が高まる可能性が指摘されています。
がん領域の伸び
Darzalex(多発性骨髄腫治療薬) をはじめとする6つの主要ながん領域製品が、Q4で合計45億ドル程度の売上を記録。
抗がん剤セグメントはJ&Jの収益を下支えしており、今後の伸びが期待される分野のひとつでもあります。
M&A戦略:Intra-Cellular社の買収
買収の概要
買収先: Intra-Cellular(ITCI)
買収額: 146億ドル
主力製品: Caplyta(メンタルヘルス関連領域)
J&Jはメンタルヘルス領域でのポートフォリオ拡充を目指しており、この買収を通じてさらなる成長を狙っています。
資金調達と将来展望
CFOのジョー・ウォルク氏によると、買収資金は主に負債によって調達予定で、大きなコストシナジーはすぐには見込んでいないとのことです。今後はCaplytaの販売拡大や追加適応症に期待が寄せられています。
外部イノベーションへの積極姿勢
CEOのホアキン・ドゥアト氏は「外部イノベーションはJ&Jの重要な資本配分戦略の一部」であると述べ、M&AやR&D投資に引き続き力を入れていく方針を明言しています。バンク・オブ・アメリカの報告では、J&Jは売上高の17%ほどを研究開発に投じており、これは米国の同業他社グループの平均(約19%)に近い水準とされています。
投資家視点で捉えるポイント
訴訟リスクは依然大きい
タルク訴訟は短期的には決着が見えにくいリスク要因です。長期保有のスタンスを取る投資家は、進捗に合わせた柔軟なポートフォリオ調整が必要といえます。
主要製品への競合参入
ステラーラのジェネリック登場に加え、価格交渉圧力が高まっています。主力製品の売上に影響が出る可能性を踏まえ、がん領域など今後の成長分野への期待が鍵となるでしょう。
M&A戦略とキャッシュフロー
Intra-Cellular買収の規模は大きいものの、年間約200億ドルのキャッシュフロー(2024年度実績)や低金利による資金調達力は強みです。追加のM&A展開も視野に入れられており、投資家としては買収の成果が収益拡大につながるか注目されます。
まとめ
J&Jは2024年度通期とQ4で好調な数字を示した一方、タルク訴訟や主力製品へのジェネリック参入、為替リスクなどの不安要素が株価に影響を与えています。とはいえ、多発性骨髄腫治療薬や新たなメンタルヘルス領域の買収など、成長機会も依然大きい企業です。投資家としては、短期的なリスク要因を把握しながらも、同社が持つ豊富なキャッシュフローや継続的な外部イノベーション戦略に注目して判断することが大切でしょう。