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ASML、好調な決算発表で株価上昇─CEOはDeepSeekによるAI需要減速懸念を否定

オランダの半導体製造装置メーカーASML(ASML)が2024年第4四半期の決算で市場予想を上回る好成績を発表し、株価が一時5%上昇しました。さらに、CEOのクリストフ・フーケ氏は、中国のDeepSeek社によるコスト効率の高いAIモデルの登場が、ASMLのAI向け半導体需要を脅かすとの見方を退けています。今回は、この決算内容と業界を取り巻く状況について整理し、投資家の視点から重要なポイントを考察します。



好調な決算内容と市場の反応

ASMLは世界で最も先端的なAIチップの製造に不可欠なEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置を唯一製造できる企業です。同社は、Nvidia(NVDA)やApple(AAPL)などの大手テック企業向けチップを生産するTSMC(TSM)などの半導体メーカーに装置を販売しており、最新型EUV装置は1台あたり約4億ドルに達するとされています。

第4四半期の業績ハイライト

  • EPS(1株当たり利益): 6.85ユーロ(市場予想は6.68ユーロ)

  • 売上高: 92億ユーロ(市場予想は90億ユーロ)

  • 受注高: 70億ユーロ超(市場予想35億ユーロ)

    • その半分はAIチップ向けEUV装置の受注

これらの数字はBloombergのコンセンサス予想を大きく上回るものであり、特に受注高の大幅な伸びが株価上昇の要因となりました。ASMLにとっては、前四半期に大幅な予想下振れがあっただけに、今回のポジティブサプライズは市場の注目を集めています。

2025年第1四半期の見通し

  • 売上高ガイダンス: 75億〜80億ユーロ(市場予想72億ユーロ)

CEOのフーケ氏は「人工知能(AI)の成長が、我々の業界を牽引する主要なドライバーである」という認識を改めて示しました。一方で「市場の変化は全ての顧客に均等に利益をもたらすわけではなく、2025年の売上予想レンジには機会とリスク両面が反映されている」とも述べています。


中国向け規制とASMLの対応

ASMLはEUVリソグラフィ装置を中国に輸出した実績こそないものの、その他の装置販売はこれまで伸びてきました。Bloombergのデータによると、中国向け売上は2023年の64億ユーロから2024年には約90億ユーロに拡大しています。

地政学リスクへの言及

近年、オランダや米国による対中輸出規制が強化される動きが活発化しており、中国企業の先端半導体アクセスを制限しようとする姿勢が顕著になっています。ASMLはこうした状況により株価が押し下げられる局面がありましたが、フーケ氏は以下のように語っています。

  • 中国売上高が今後の総売上に占める割合は2025年以降20%程度と想定しており、既定の見込みから変わりはない。

  • 地政学リスクによっては2025年の売上ガイダンスの下振れ要因になる可能性がある。


DeepSeekのAIモデルとASMLの見方

今週、中国のDeepSeek社がよりコスト効率の高いAIモデルを発表したことで、「米国を中心としたIT大手がAIインフラ(半導体)に多額投資しなくなるのではないか」という見方が一部で浮上しました。これを受けASMLの株価が一時下落する場面もありました。

CEOによる懸念否定

フーケ氏はCNBCのインタビューで「AIのコストが下がれば、その分適用範囲が広がり、長期的には需要が拡大する」とコメント。より多様な応用が増えれば、結果としてチップ需要は増加し、EUV装置に対する引き合いも続くとの見解を示しました。


投資家視点で捉えるポイント

1. AI需要は引き続き成長要因

フーケ氏のコメントや実際の受注高からもわかるように、AI関連の需要は半導体業界をけん引する重要なテーマとなっています。DeepSeekの新モデルが短期的に株価を揺さぶる要素になったとしても、長期的にはAI利用拡大がEUV装置の需要増につながる可能性が高いとみられます。

2. 地政学リスクと中国依存度

現在の世界的な輸出規制の動向は、中国市場をターゲットとする企業にとってリスク要因になっています。ASMLの場合、すでにEUV装置は中国へ輸出していませんが、その他装置の中国向け売上は大きな割合を占めています。今後の政策変更や規制強化によっては、業績の下振れリスクとなる点に留意が必要です。

3. 2025年ガイダンス幅への注目

ASMLは2025年の売上ガイダンスについて幅を持たせています。これはAI需要の伸長によるポジティブな影響と、地政学リスクなどによるネガティブな影響の両方を見込んでいるためです。株価はこのレンジの上限・下限をどの程度達成できるかによって上下動する可能性があります。


まとめ

ASMLは2024年第4四半期の好調な業績と積極的な受注状況を示し、特にAIチップ向けEUV装置の需要が引き続き成長をリードしています。一方で、米欧による対中輸出規制やDeepSeekの新AIモデルによる市場の混乱など、潜在的なリスク要因も存在します。しかしCEOのフーケ氏は、AIが低コスト化されて適用範囲が広がれば、長期的には半導体需要が拡大すると強調しています。投資家としては、AI需要拡大と地政学リスクのバランスを注視しながら、2025年に向けたASMLの業績見通しと今後の受注動向を継続的にモニタリングする必要があるでしょう。

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