エヌビディアCEO発言が引き金に──量子コンピューティング株が大幅下落
エヌビディア(NVIDIA)のCEOであるジェンセン・フアン氏が、真に「有用な」量子コンピュータの実用化はまだ数十年先になるだろうと発言しました。これを受け、量子コンピューティング関連銘柄が大幅に下落する事態となっています。本記事では、今回の株価動向や注目される背景、そして投資家目線でのポイントを解説していきます。
量子コンピューティング関連銘柄の急落
エヌビディアのフアン氏はアナリスト向けの説明会で「本当に有用な量子コンピュータが登場するには最低でも15年、長くて30年はかかる」と述べました。その結果、Rigetti Computing(RGTI)やIonQ(IONQ)といった量子コンピューター関連企業の株価が、水曜日に40%以上も急落。特にRigettiが49%、IonQが47%、D-Wave Quantum(QBTS)が48%、Quantum Computing(QUBT)が50%もの大幅下落を記録しました。
フアン氏の発言の背景
フアン氏は「量子コンピュータはあらゆる問題を解決できるわけではない」と前置きしつつ、実用性の高い段階に達するまでには時間を要すると指摘。たとえ15年という予想が「早い」方であっても、20年を目安にするのが妥当だという考えを示しました。
直前までの上昇ムード
量子コンピューティング銘柄は2022年の11月末から12月にかけて急騰していました。Amazonが量子コンピューティングのアドバイザリープログラムを発表するなど、業界全体の進展に対する期待感が高まっていたことが背景にあります。IonQのハードウェア上でエヌビディアの量子コンピューティング向け開発キットが稼働したというニュースも大きく株価を押し上げました。
米国政府の後押しと主要各社の取り組み
米国政府は2018年の「国家量子イニシアチブ法(National Quantum Initiative Act)」を再承認し、約27億ドル(2.7ビリオン)を追加拠出する法案を提案するなど、この分野の研究開発を積極的に支援しています。2022年12月9日にはGoogleが新たな量子コンピューティングチップ「Willow」を発表し、大型化に伴うエラー増加問題を軽減できる技術を開発したと伝えました。
こうした一連の出来事が重なり、量子コンピューティング業界全体が大きく注目されてきたわけです。
依然として高い株価水準
水曜日の大幅な下落にもかかわらず、Quantum Computing(QUBT)は依然として6か月前に比べて約1,400%の上昇を記録しており、Rigettiも850%以上、D-Waveは360%、IonQは265%といった水準を保っています。
エヌビディアの立ち位置と加速計算
ジェンセン・フアン氏は「われわれ(エヌビディア)はほぼすべての量子コンピューティング企業と協業している」と述べています。しかし短期的には、量子コンピューティングそのものに飛び込むよりも、既存のGPU技術など“加速計算”に注力する方向性を強調。量子コンピュータのエラー補正を担当する「古典コンピュータ」の高速化こそが、今のエヌビディアの強みであり、同社はその役割を担う意向を示しました。
古典コンピュータとの共存
量子コンピュータは強力な演算能力を持つ一方で、エラー補正などに多くの古典コンピュータ資源が必要です。フアン氏の言葉を借りれば「量子コンピュータのエラー補正には、人類が作れる最速の古典コンピュータが必要」であり、それがエヌビディアのGPUやCUDAを活用した超高速演算環境というわけです。
投資家視点で捉えるポイント
今回の急落は、エヌビディアのCEO発言に敏感に反応したものの、量子コンピューティング関連企業への長期的な見方が変わったわけではありません。ここでは投資家が注意したいポイントをいくつか挙げます。
1. 実用化までのタイムライン
市場には高い期待がある一方で、技術的ハードルが多いのも事実。今回の株価急落は「開発スピードへの過度な期待」が揺らいだ形ですが、長期的には引き続き重要な分野です。投資家としては短期のボラティリティ(乱高下)も見越したうえで、自身の投資計画を見直す必要があります。
2. 国や大手企業による支援・参入
米国政府やAmazon、Googleなどの大手企業が継続して支援・研究開発を行っています。こうした巨大資本や政策の後押しが続く限り、量子コンピューティングに対する期待感は残るでしょう。中長期で成長が見込まれる領域であることは確かです。
3. 古典コンピューティングとの融合
NVIDIAが力を入れるように、量子コンピューティングと古典コンピューティングのハイブリッド的な利用が現実的なアプローチになると考えられます。この技術統合に強みをもつ企業がどこなのか、今後のコラボレーションやパートナーシップの行方にも注目が集まります。
まとめ
エヌビディアCEOの「量子コンピュータは数十年先」という発言で、量子コンピューティング銘柄が急落した一方、依然として大手企業や政府の支援は厚く、長期的な注目度は高いままです。技術の成熟には時間がかかるものの、古典コンピュータと量子コンピュータの融合など新たな方向性もみられます。長期投資の視点を持ちながら、この急変をチャンスにするかどうか、投資家の判断が問われるところです。