脈あり心室頻拍に除細動をしてもいいのか?
講習会に参加すると、色々な気づきがあって勉強になります。
先日とある県でICLSコース(日本救急医学会認定の二次救命処置の講習会)のディレクターをさせていただきました。ブースインストラクターの方から、受講生の方にタイトルの質問をされたとのことでした。
「同期電気ショックをした直後にパルスチェックをする(心停止になったかもしれないので)のですが、その際脈が触れなければ非同期の電気ショック(除細動)をすると思いますが、もし本当は脈が触れる状態だったら(自分の脈の触れ方が悪かった)、非同期電気ショックをしても大丈夫なのでしょうか?」という感じの質問でした。
鋭い受講生の方ですね。答えは「イエス!」なのですが、色々調べてみました。
まず、以下のサイトの文章の連続した概念という言葉とてもいいです。
「VF(心室細動)では必ず無脈になりますが、VT(心室頻拍)では脈が触れる場合と、触れない場合とがあります。といってもVTの場合、無脈か有脈かは連続した概念であり、触れ方によって、あるいはどこの血管で診ているかによっても異なってきます。」(括弧は筆者追加、太字も)
脈が触れる、触れないと言うのは言葉だと二つに分けられますが、その境は決まっていません。脈を触れる人によっても違うでしょうし、触れるタイミングでも違うでしょう。
脈の強さを数字で表したとして、0が完全にない、10が血圧200ぐらいでよく触れるとします。まあ3以下は触れないと言う人が多いと仮定して、2.9は非同期の電気ショック)、3.1は同期電気ショックになりますが、その0.2の触れ方の違いは小さいです。また、ある人は4でも脈が触れないと判断するのですが、別の人は4だと脈が触れると判断すると言うこともあるでしょう。
よって、脈が触れない心室頻拍=非同期電気ショック、脈が触れる心室頻拍=同期電気ショックと言うのもうまく分けられないことがあります。
何故同期をするかについては、色々なところに書いてありますので参考にされてください。心電図の相のあるところで低エネルギーの電気ショックをかけると、そのために心室細動になるため、心室細動になりにくい所でショックをかけるためにQRS波形を検知する必要がある(同期する)と言うのが理由です。同期できない場合には、高エネルギーショックを与えるべきとされています。逆に言えば、高エネルギーショックを与えるのなら同期は不要と言う事です。
UpToDateの「Cardioversion for specific arrhythmias」という文献には以下のように記載があります。
The amount of energy selected for initial attempts of defibrillation has been controversial. The energy selected should be sufficient to accomplish prompt defibrillation because repeated failures expose the heart to damage from prolonged ischemia and multiple shocks. On the other hand, excessive energy should be avoided, since myocardial damage from high-energy shocks has been demonstrated in experimental studies, although the frequency with which this occurs in humans is not known.
初回の除細動のために選択すべきエネルギー量はいくらかについては議論のあるところである。除細動が繰り返し不成功となれば、虚血時間が長くなったり、複数回の電気ショックを与えることになるため、心筋にダメージを与えるので、選択されたエネルギー量は直ちに除細動されるのに十分な値であるべきである。しかし、高エネルギーショックによって心筋損傷が起こることが動物実験で示されているため、過剰なエネルギー量は避けるべきである。しかし、ヒトにおいてそれがどのぐらいの頻度で起こるかについては不明である。
If a distinct QRS and T wave are identified, allowing the delivery of energy to be synchronized to the QRS complex, monomorphic VT can often be terminated with a low-energy shock. Despite the potential for terminating VT with very low-energy shocks, one must consider the seriousness of the arrhythmia and the desire to avoid repeated shocks. As a result, the initial synchronized shock in these circumstances is recommended to be 100 joules.
明らかなQRS波やT波が検出されれば、QRS波に同期してエネルギーを与えられ、単形性心室頻拍は低エネルギーショックで停止することが出来る。その一方、心室頻拍のもつ危険性(早く止めないといけないと言うこと?)や、ショックを繰り返さないことの重要性も考慮しなければならない。よって、このような状況では、初回の同期電気ショックは100Jから開始することが推奨されている。
(本当はもっと低いエネルギー量でも心室頻拍が停止する可能性はあるのですが、少し多めの100Jからやりましょうと言うことでしょうか。)
ACLS provider manual 2020 verのP.82(英語版)には以下のようにあります。
お金をけちって英語版しか持っていないのですが、たぶん日本語も英語もページ数は同じです。
Unsynchronized high-energy shocks are recommended
・For a patient with no pulse(VF/pVT)
・For clinical deterioration(in prearrest), such as those with severe shock or polymorphic VT, when you think a delay in converting the rhythm will result in cardiac arrest
・For patients who are unstable or deteriorating and synchronization cannot be immediately accomplished
・When you are unsure whether monomorphic or polymorphic VT is present in the unstable patient
非同期高エネルギーショックは以下の患者に推奨される。
・脈のない患者(心室細動、脈なし心室頻拍)
・臨床的に重症(心停止直前)、例えば重症ショックや多形性心室頻拍など。不整脈を停止できなければ心停止になると思われる場合。
・不安定だったり悪化しつつある状態、または同期が直ちに得られない場合。
・不安定な患者が多形性心室頻拍か単形性心室頻拍か分からない場合
脈が振れるか触れないか分からないような脈ありVTは非同期電気ショック(除細動)でいいですね!!
まとめると以下のような感じです。
心室頻拍は比較的低エネルギーで停止させることが出来る。
電気ショックによる心筋損傷がゼロではないので、出来るだけ低いエネルギーで電気ショックを行いたい。
少なすぎてもよくないので、少し多めの100Jで。
低エネルギーショックは心室細動を起こすかも知れない。
それを避けるために同期が必要。
→ なので同期電気ショック100Jを。
逆に言えば、
電気ショックによる心筋損傷がはたして起こるのか、どのぐらいの頻度なのか不明である。
心筋損傷を考える前に救命をしなければ意味がない。
同期電気ショックは、非同期電気ショック(除細動)よりも手間がかかってショックをかけるまでに時間がかかる。
脈が触れない心室頻拍に対して同期電気ショック(低エネルギー)を行うと、心室頻拍を一度で停止させられないかも知れない。
その場合、虚血時間が長くなり、繰り返し電気ショックを行うことでかえって心臓に与えるエネルギー量が増えるかも知れない(100Jで失敗し、150Jを与えた場合、最初の100Jは余計なエネルギー量になります)。
→ なので非同期電気ショック(除細動)を。
どちらの行動を取っても大きな問題はない(議論のあるところですが)ので、迷ったら悪い方を採用するという原則に従えば、心室頻拍の患者さんを見つけ、脈が触れないと思ったら、無脈性心室頻拍と考え非同期電気ショックを行うべきだと言うことになります。
注:電気ショックと除細動は同じ言葉のように思えますが、厳密には違うという意見があります。
除細動は心室細動が止まる(5秒以上?)ことで、除細動を得るために行う処置が電気ショックだという意見があります。
今回は非同期電気ショック(除細動)と記載しました。