廃棄のお着物を救うことは着物産業を救うことになるのか
先日「廃棄のお着物を再利用することは着物産業を救うことにならないんじゃない?」というようなツイートが目に入り、そうねそれは別軸の話だから直接はつながらないねとツイートしたのですが、そもそもなぜ別軸なのかなぜ直接繋がらないのかということをもう少し深掘りしたほうが良さそう。。。だけどなにかいらぬ誤解を招くのもなんだしなあーと頭の片隅に置いていたのですがアパレル生産に10年以上身を置き、お着物をお預かりしている者としてこれをスルーするのもいかがなものかと思い、悩みましたがここに私の考えをまとめておこうと思います。
早速ですが、まず結論から言って廃棄のお着物を再利用することは「直接」着物産業を救うという結果にはならないと考えます。 廃棄着物を救うことと、着物産業、生産を救うということは別軸の話だからです。 なんだと!?どういうことだ!じゃおまえがやってることはなんだ!!と思った方もいらっしゃると思いますのでつづきを、、、
まず、廃棄の着物(リサイクル着物)を再利用することで救えるのは文化、伝統、その時代の知見だと考えます。
いきなりふわっとしたこと言ったように見えますが、お着物とは民族衣装です。代々と受け継がれてきた知恵と技術の結晶です、時代風土の知恵です、移り変わる流行の歴史が垣間見える時代の証拠です、確かにそれらを産み出した職人の想いでもあります。存在するからには必ず作り手と作り手の意思がそこにあるわけです。後継者不足でもう今はできない仕様、染、刺繍 、技法やもう使われない顔料今はもう「無い」「できない」あらゆるお着物を構築する技術の結晶です。捨てるのではなく救い上げて再利用するということはこれらを「守る」ということだと思います。少し大げさかもしれませんが言うならば廃棄されるお着物(リサイクル着物)を再利用することは「文化伝統の保持、保存」と考えます。
では着物産業、生産を救うのはなにか、それは新たな「生産」そして「需要」を産むこと一択だと考えます。
お着物を着る人を増やすことも当然必要なことですお着物を着ること、生活に取り入れること、最初に「古着着物の再利用は直接着物産業を救うことにはならない」と言いましたが、このお着物を着る、着たいと思うきっかけはリサイクル着物やリメイクに触れるということから十分にあり得ますので「間接的」にはつながる部分ももちろんあります。なので、このことは直接にイコールで結びついてるのではなく古着着物を使用することは 文化、伝統、知見を守ること、そして着物産業生産を守るのは新しい反物を生産すること、需要を産むこと、と考えます。
それをふまえてkeniamariliaはなにをしているのか、このブランドの目指すことは着物文化の存続、生産産業を底上げをすることです。
でも古着を使ってるんじゃ生産は救えないじゃないかと、実は初期の段階ですでに新反をつくろうとあれこれいろんなところに足を運んでいろいろ話をきいていたのですが思ってた以上に再現したい色柄模様、地紋が現在できないという壁にぶつかりました。予想以上になくなっていたのです、この現実には異常な焦りと戸惑いを感じました。新たな生産の前にまず、もう今はできない下手したら廃棄されてしまうかもしれない珍しい技法でつくられるような、無くなってしまうかもしれないお着物を守ることから始めなくてはと思い古着着物を使用しています。
けれどもちろん生産も順次計画をしています、keniamariliaの長袖ケニシャツの裏地は着物の同裏を新たに織って生産した生地を使って仕立てました。30年前だからできたもの50年前のもの、中には100年前の着物も現在存在しています。これは本当に凄いことなのです、これらを無視して新しい生産にだけ目をむけることに違和感を覚えましたし、着物の存在や素材、着物生地の美しさを広く伝えることもこのブランドの役割だと思い古着着物を使用しております。
産業の衰退するスピードは予想以上です、振り返ったときにはもう存在していないということは十分にありえることです。アパレルの生産にかかわってもう15年近くがたとうとしていますが、これは日本の縫製産業に実際に起きた出来事です。
「90年代初めに50%あった国産比率は3%まで低下した。」
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO20071820X10C17A8000000/
けれどまだ手はあると思いますし絶対絶やさせまいという思いでブランドを作りました、私の代で終わることなく次の世代にバトンを渡せるようなブランドでありたいとも考えています、そして私の役目は着物産業生産の底上げ、お着物と新たな反物の需要を産むことだと考えています。
座波
追記:まだ少し準備に時間が必要ですが将来的にはお手持ちのお着物をkeniamariliaの型で仕立てるセミオーダーができるようにしたいと思っています。また、現状は繊維品質管理法の都合上繊維が正絹か化繊かどちらかであるか明確な補償表示のあるお着物を法人店より購入したもののみ取り扱いをしております。セミオーダーになりましたらこの辺りに融通がきくようになるかと思いますので今しばしお待ちいただければと思います。