Gruppo Nori Opera 『外套』&『ジャンニ・スキッキ』レポート
皆様こんにちは!
テノール歌手、野村京右です。
オペラを説明するということは中々大変なことで、自分なりに活字として記し伝える練習の意味も込めて初めての執筆中です。あくまで『簡潔』なものを書くつもりです。
稚拙な文章になってしまうかもしれませんが、宜しくお願いします✏️
この度、2022年12月9日に出演するオペラ、
『外套』と『ジャンニ・スキッキ』について観劇する前の予備知識や私なりの見どころなどを紹介しようと思います。
ちなみに私は
『外套』にて ティンカ
『ジャンニ・スキッキ』にて リヌッチョ
をそれぞれ演じます。
全くと言っていいほど似てない2人を演じるのはエキサイティングなことですし、とても楽しみです。
オペラ『外套』と『ジャンニ・スキッキ』とは
1918年、アメリカのメトロポリタン歌劇場で初演されたジャコモ・プッチーニ作曲の『三部作』のうちの2つです。
恐らく観て聴いていただくと、この2つの短いオペラが関係しているように感じる方は少ないのではないでしょうか?
舞台上から醸し出される雰囲気や、物語からは想像がつき難いかと思います。
そしてもうひとつのオペラは『修道女アンジェリカ』という作品で、こちらもまた時代背景や物語が大きく異なります。
三部作として上演される場合『外套』→『修道女アンジェリカ』→『ジャンニ・スキッキ』の順番で構成されています。
ここでは諸説あるこの三つのオペラの結びつきについてや『修道女アンジェリカ』についての説明は控えますが、気になる方はそちらも是非チェックしてみてください。
それでは本編である作品概要です!
続けてどうぞ。
『外套』Il tabarro
登場人物👥
・ミケーレ(バリトン)
輸送船(艀)の船長。50歳
・ジョルジェッタ(ソプラノ)
ミケーレの妻。25歳
・ルイージ(テノール)
ミケーレの元で働く港湾労働者。20歳の青年。
・ティンカ(テノール)
同じく港湾労働者。酒癖の悪い35歳。
・タルパ(バス)
同じく港湾労働者。55歳。
・フルーゴラ(メゾソプラノ)
タルパの妻。50歳。
・流しの歌唄(テノール)
『ミミの物語』という小唄を歌う。
どのような物語か⚓️
1910年 夕刻 フランス パリ・セーヌ河畔
河に浮かぶ輸送船の降板上での出来事
貨物輸送船の船長であるミケーレは妻・ジョルジェッタとのすれ違いを感じる。年老いた船長に対して、若すぎるとも言える妻の存在。
そして変わりのない廃れた日々に労働者たちの楽しみといえば酒、音楽、踊り…。それも一時的な自分らへの誤魔化しだとどこかでは気づいている彼ら。
憂いや虚しさ、哀愁が感じられる音楽や登場人物らがいっそう船内の廃れた空気をこだましていく。
その中でも微かに残された青春への憧れを残す青年ルイージは、何やらジョルジェッタと密やかに…。
嫉妬と憎しみの織りなすこれ以上ないと言っていいほどの"鬱鬱"とした陰気を帯びた三部作の序章…!これは地獄なのだろうか…。
救いのない物語に心を沈めたとき、三部作の終章『ジャンニ・スキッキ』へとバトンが繋がります。
小話
この物語は本当に救いのないような暗いトーンの物語です。まず舞台がパリであるというところがカギでして、パリという街は上流階級の人々だけでなく夢を持って大成することを願う人々が集まる場所です。東京もそうですよね。
プッチーニのラ・ボエームという作品はそんなボヘミアンたちを描いた作品ですが、このオペラの中で流しの歌唄いが『ミミの物語』という小唄を披露するシーンがあります。これはラ・ボエームに登場するヒロイン・ミミのことを示唆していて、同じパリを舞台としていることからプッチーニの入れたスパイスになっています。あちらの作品では詩人ロドルフォが自分のLa speranza(希望)を自己紹介とともに歌う名アリアがあります。
恐らく外套に出てくるキャラクターも希望を持ってパリで生活を始めたのでは?と考えられます。希望を持ってパリという街にやってきた人々が、どこかのタイミングで日々の労働、生活のルーティンに疲れ果て挫折してしまった。
この作品中ではそのような人物たちの様子が描かれています。
『ジャンニ・スキッキ』Gianni Schicchi
登場人物👨🦳
・ジャンニ・スキッキ(バリトン)
田舎から知恵で成り上がった切れ者。50歳
・ラウレッタ(ソプラノ)
ジャンニの娘。リヌッチョとは恋仲。21歳
〜ドナーティ家〜🏠
・ブオーゾ・ドナーティ
大富豪。物語開始の時点でなんと死亡している。彼の遺産相続を巡り親戚一同が集まる。
・リヌッチョ(テノール)
資産家ブオーゾ・ドナーティの甥。ラウレッタと恋仲。24歳
・ツィータ(アルト)
ブオーゾの従姉妹。リヌッチョの叔母。60歳
ジャンニのような田舎上がり者を毛嫌いしている。
・シモーネ(バス)
ブオーゾの従兄弟。行政官を務めていたこともあるが今はボケ気味。70歳
・マルコ(バリトン)
シモーネの息子で、なにかしらあると父へ責任転嫁する無責任な男。45歳
・チェスカ(メゾ)
マルコの妻。不都合があると夫へすがる。38歳
・ゲラルド(テノール)
ブオーゾの甥。妻の尻に敷かれている。40歳
・ネッラ(ソプラノ)
ゲラルドの妻。強欲で夫を使い倒す。34歳
・ゲラルディーノ
ゲラルドとネッラの息子。両親から虐待を受けている。7歳
・ベット(バス)
年齢不詳だがブオーゾの義弟。ボロの服を着るなど汚い身なりをしている。年齢や素性も不明だが、ブオーゾの遺書にまつわる噂を聞きつけやって来ている。
〜その他の登場人物〜👨⚕️
・ドクター・スピネロッチョ(バス)
ブオーゾの主治医。学歴を自慢をするがヤブ医者である。
・アマンティオ ディ ニコライ(バリトン)
ブオーゾの遺書をしたため直しに来た公証人。
お金には弱い一面がある。
・ピッネリーノ
ブオーゾの遺言に立ち会うため呼ばれた御用達の靴屋。
・グッチョ
ブオーゾの遺言に立ち会うため呼ばれた御用達の染物屋。
どのような物語か💸
1299年 イタリア フィレンツェ
大富豪ブオーゾ・ドナーティの邸宅にて
大富豪ブオーゾ・ドナーティの寝室では親戚一同は集まり大袈裟に悲しんでいる。実はこの親戚たちはブオーゾの遺産を目当てにやってきた下心のある大人がほとんど。
やがて噂話で遺産が全て修道院に寄付されると聞くと、遺書を大慌てで探すのだった。青年リヌッチョが遺言書を発見すると『もし相続が満足のいくものであれば、ラウレッタと結婚することを許して欲しい』と告げる。
恐る恐る、一同は遺言書の内容を読み始めるが内容は噂通りものだった。期待外れに終わり、リヌッチョの結婚の話しも取り合ってもらえなくなってしまう。
そんな時、ラウレッタの父でありこの一家とは対照的な田舎からの成り上がり者であるジャンニ・スキッキが登場する。
娘から説得されこの騒動に知恵を貸すこととなったジャンニは遺言の書き換えができないかと考える。そしてブオーゾの主治医であるスピネロッチョの訪問を機にとある作戦を思いつく…!
欲に囚われた親族たちはどうなるのか、莫大な財産は誰のものとなるのか…。
そして若きカップルの恋は成就するのか…!?
プッチーニの作品の中でも異端中の異端である喜劇作品を上映します。
とりあえずこれだけは言わせてください。
と私的には言いたくなるようなラストです。笑
フィレンツェの写真も…!
小話
強欲なドナーティ家の人物たちが非常に面白おかしいオペラです。ブオーゾは親族たちのこのような面をよく見抜いていたからこそ修道院に遺産を全て寄付すると遺言していたのかと思うとそれはそうだと言いたくなるかもしれません。笑
ジャンニはこのドナーティ家の人々と遺言の書き換えを図るわけですが、その共犯者となる際、『Addio Firenze addio cielo divino〜♪』と歌いだします。
この一節の意味合いは、
"勝手な遺言の書き換えを行ったものたちは、手を切断されフィレンツェから追放されてしまう。"
『さらばフィレンツェ、さらば神々しい空よ。手のない腕でお別れです〜♪』と親族を脅しているわけです。
この脅しは物語のオチに結びつくところなので注目して観て聴いていただけたらと思います。
また、ブオーゾの遺産で特に価値の高いものとして3つのものが出てきます。
それは『家』『ラバ』『粉挽き場』の3つです。
『家』はまさに今登場人物たちの集っている場所そのものです。大豪邸であることが伺えます。
『ラバ』は家畜で雌馬と雄ロバのハーフのことを言います。丈夫で利口な種類で、ラバの飼育は一大事業だったようです。
『粉挽き場』は麦などを粉に変える場所で中世のヨーロッパでは重要な施設だったようです。
日々の食生活に繋がるものですね。
これらの財産がどうなるか、このオペラの結末をどうかご覧ください…!!
さて、2つのオペラを私的にはできるだけ簡易に説明したつもりなのですが、いかがだったでしょうか?あえてオチは伏せました。
普段からオペラを鑑賞され勉強されている方にはあまりに物足りない情報量だったのではと思いますが、冒頭の通り簡潔にするつもりでの執筆です。ご容赦ください。
逆に難しいなと思われた方は是非教えて下さい。今後の参考にさせていただきます。
最後に私の視点から今回の公演に向けて、感じていることなどを記して終わりたいと思います。
おまけみたいなものですので、ここから先は読まずとも公演までの準備はOKです!
先に物語のオチまで理解しておきたいという方は『各オペラの名前+プッチーニ+あらすじ』などで検索すると全容が書かれたサイトなどをご確認いただけると思います。お好みでどうぞ☕️
またこの文章が好評でしたら、執筆を続けたりこのnoteにも追記をしてみようかと思います。
ここまでお読みになっていただき誠にありがとうございます。
野村京右
オマケ
今年は出演するオペラがことごとくプッチーニ作品であります。
10月に出演した『トスカ』ではスポレッタという役を演出の三浦安浩先生(通称・アンコウ先生)にこれでもかというほど見せ場を作っていただき、豪華なキャストの中に入れていただきました。
主役というような役ではなかったのですが脇役といってしまうとあまりに不適切で、物語を進行する上で欠かせない役であり、またとても要求されることの多い役柄で非常に勉強になりました。
個人的にはもっと、もっと上手くやらねばならないことが多かったと思っています。
どのオペラそうですが特にプッチーニの作品は無駄が一切なく、間や微細な変化なども大きな意味を持って楽譜の上に書かれています。そしてト書き(人物の動作などを示したもの)も多いのが特徴です。
主役のみならず全ての役がこういった細部を埋めているからこそ、死没から100年経とうとしている今尚上演され続ける作品なのでしょう。演者へ要求されることはとても多いです。
12月の『外套』『ジャンニ・スキッキ』
そして3月には『トゥーランドット』と
更にプッチーニが続きます。
冒頭にも書いたとおり、『外套』で演じるティンカと『ジャンニ・スキッキ』で演じるリヌッチョはかなり異なるキャラクターであり、
ましてや『トゥーランドット』では皇帝アルトゥームは老人の役です。
自分の声の適正な役であればこの中だとティンカが1番でしょうか…。
ここ1年とちょっとの発声修正についてはまた書きたいなと思っているのですが、テノールの中でもスピント、下手したらドラマティコの部類にあたるような力強いタイプの声になった自分はリヌッチョのような軽やかな声やアルトゥームのように年老いて擦れ始めたような声ではありません。
精神年齢の話であればリヌッチョが1番近いとは思います。
オペラで自分にピッッッタリといったような役は必ずしも与えられるとは限りませんし、20代であろうと老人をやることだってないとは言えません。逆に50代、60代の方なども青年の役を演じることは当たり前の世界です。
なので今の私に使える材料をなんとか使って演じようと思います。
決して配役ミスではなく、こういう味付けのオペラなのだと思っていただけるよう残りひと月で詰めていきたいと思います。
個性的なキャラクターが登場する両オペラなので、是非キャストひとりひとりが練り上げた人物像にもご注目ください。
それでは、会場にてお待ちしています。
寒い季節です。風邪などひかれぬよう、お元気で。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?