Staffer Case 超能力推理アドベンチャー 期待通りに話が進むと思うのはプレイヤーのエゴ

※本編のネタバレが含まれます










ゲーム内容

『Staffer Case』(ステッパー・ケース)は新感覚の推理ゲーム!新人捜査官ノートリックとなり、殺人事件の現場で手がかりを捜索。超能力で作成された文書をもとに矛盾を指摘し、トリックを解き明かせ。謎を解明するたび、事件の核心に近づいていく。隠された真実を暴け!

https://store.steampowered.com/app/2128480/Staffer_Case/?l=japanese
Steamストアページより

桜花裁きに続いてまたしても推理ゲームをプレイさせていただきました。
舞台はロンドン。人口の1割程度が超能力である「ステッパー」であり、念動力や発火能力、はたまたタイムリープのようなスキルが世界に平然と存在しています。

主人公は「ステッパー」ではありませんが、稀有な推理能力を持っており、その資質を買われて超能力での犯罪を追う専門組織「マナ事件専任チーム」に配属されます。

同僚もまた「ステッパー」で、各人のスキルを活かして捜査に臨むことになります。
心拍数を聞き分け、証言の嘘を確実に見抜く能力や触れた物の過去の聴覚や触覚を追体験する能力などを持ち、通常の推理ゲームとは一風変わった展開を楽しめます。

登場人物がそれぞれダンガンロンパの超高校級の才能を持っており、それらを活かした犯罪を、これまた特殊能力を使って暴く!というイメージです。ダンガンロンパでは才能を使った殺人はあまり行われませんでしたが、本作では常にスキルを意識してプレイすることになります。

良かった点

危険度の定義や管理社会といったワクワクする世界設定

本作は異能物?ですが、一般的な作品とは異なって能力者は管理・統制の対象であり、無能力者から差別も日常的に受けています。

ステッパーは管理局によってそれぞれ以下の危険度が分類されています。
「Unarmed(普通の人間と同等の危険度)」
「Bowie(刃物と同等の危険度)」
「Colt(拳銃と同等の危険度)」
「Estienne(戦車と同等の危険度)」
武器武装になぞらえて定義されており、危険度が高いステッパーは日常の生活が制限されることもあります。

彼らは危険レベルが分かるブレスレットの装着を義務付けられ、万が一社会にとって害が発生した場合、ブレスレットから電流・神経毒が流され排除されることもあります。

さらには一般には公開されていないEstiennne以上の危険度も存在しており、「Oppenheimer(原爆)」「ノア」といった世界に大きな影響を与えうるスキルは、即刻排除されるか、有用であれば地下施設での人体実験に利用されるなど人権すらまともに存在しません。
※作中で「ノア」は世界を破壊するレベルのスキルと言及されているので「ノアの箱舟」がモチーフですかね?

通常の異能物であれば、能力が高ければ高いほど尊敬の対象です。一方で本作では能力が高ければ高いほど恐れられる管理の対象となっており、ディストピアじみた作中の世界観が物語に緊張感をもたらしています。

私のスキルは「Oppenheimer」級です…。
とかカッコいいに決まってるでしょ。

中二ゴゴロを非常にくすぐられて、もっとこの世界に浸っていたい…と思わせる魅力がありました。

無能力者が能力犯罪者に立ち向かう!という主人公設定

主人公であるケース君はステッパーではありません。同僚の捜査員はみなステッパーであり、自らのスキルを捜査に活用しています。

一方でケース君は持ち前の頭脳のみで超能力によって発生した犯罪の真相を突き止めていきます。

無能力者の主人公が活躍する!というのは王道の設定ですが、王道は王道だから面白い。

ただ、Case1から主人公の特異性は如何なく発揮されます。
プレイヤーはケース君視点で証言や証拠を繋ぎ合わせて違和感や矛盾を指摘するのですが、推理モードでの作中の時間経過は殆ど無い設定です。
そのため裏ではプレイヤーがうんうん唸って考えた謎も、プレイヤー以外の視点ではケース君が一瞬で解いたようにしか見えません。

「ケース君の思考スピードについていけない」といった描写もあり、ステッパーでは無いものの、才能はめちゃくちゃ凄いやつですね。
※私が頑張って考えているんだぞ!と言いたくもなりますが 笑

犯人や捜査員が抱える思いの魅力

本作に登場するステッパーは、自身の持つ能力や境遇によってやむにやまれず犯罪に手を染めてしまったり、巻き込まれてしまいます。
短絡的にお金が欲しい!とかではなく、自身の居場所を守るため、信念に従うために事件を起こします。

決してただの推理トリックを用意するためだけの登場人物ではなく、各人のキャラクター性は非常に魅力的に構成されています。
ステッパーは現実にはいないけど、こういった悩みを抱えている人は現実にもいそうだな~と思わせてくれましたね。

そんな人々を主人公のケース君はズバズバ真相をついて詳らかに明かしてしまうんですけどね…。
ケース君自身も、真実を追求することが本当に正しいのか悩みながらストーリーが進みます。
非常に高い推理能力は的確に真実を明らかにしますが、明らかにならなかった方が良い真実も存在するのではないか…といった悩みをプレイヤーにも抱えさせてくれます。

推理トリック以外にも上記のような考えさせるようなストーリー展開がよく考えられており、推理物が苦手な方にもお勧めできます。

また、マナ事件専任チームの面々もストーリーが進むにつれてパーソナリティが段々開示されていきます。
捜査員もステッパーであり、社会から疎まれるような存在です。
一癖も二癖もある面々がケース君と関わってお互いを信頼できるような関係性に少しずつ変わっていくのが良いんですよね…!

良質な翻訳とシステム

韓国のディベロッパーが作った海外作品ではありますが、殆ど違和感なくローカライズされていました。

普段の会話劇では一部表現が堅苦しかったり、婉曲すぎる言い回しになっていたりしましたが、推理パートでの日本語は完璧でした。
証言や証拠品での文言が正しいことは推理にあたってはマストですので、特に力を入れて翻訳されたんだなと感じましたね。
言語の問題で躓くことはほぼ無かったです。

システム面も快適で、一部演出が長ったらしい以外はサクサクとプレイできます。UIもロンドン舞台の推理物と合っており、シャーロックホームズを思わせるような拡大鏡や色使いで没入感に一役買っています。

特筆すべきは分岐システムで、通常の推理ゲームには無い選択肢がプレイヤーに与えられていることです。
プレイヤーは真実を追求するか、あえて誤った推理をして真実を隠すかの選択ができます。

また、一般的には誤った選択をした場合にはゲームオーバーになるか、ペナルティを食らってやり直しになりますが、本作ではそれを許容しています。

真実を隠す選択肢を取ったとしても物語が進行し、クリア扱いとなります。
上でも述べたように、真実を追求することが必ずしも良い結果を生み出すことにはならないため、ケース君と一緒にぜひぜひプレイヤーは大いに悩んで下さい。

私はCase1で思いっきり犯人の誘導に引っ掛かって間違った結果に行きました 笑。
初見では普通に話が進んで、そのまま終わるのでクリアしたんだ!と勘違いしましたが、「分岐に戻る」という選択肢が表れて衝撃を受けました。

このゲーム分岐あるんかい!! 笑

イマイチだった点

(私にとって)期待していたものではなかった後半の展開

あえて(私にとって)という注釈を付けさせていただきます。

本作のストーリー展開は非常に見事で、殆どケチを付けるような点はありません。Case1~4の中で感じた違和感を、Case5で明かされる真実によってカタルシスが解放される流れは良くできています。
推理システムの中にも細かく伏線が紛れ込んでおり、まさに製作者がやりたかったことを完璧に実現したと言って良いでしょう。

ただ、製作者がやりたかったことと、私がプレイに従って盛り上がってきた期待がズレてしまっていったことが問題でした。

私としてはCase1~Case4の流れの中で、次々と明かされるステッパーの危険性や管理局の異常性に対して興味が向いていきました。
その流れを引き継いで、Case5ではより踏み込んでケース君がこの社会に対して真実を突き付けて世の中を変えるような展開が見たかった…。

一方で製作者としてはCase5においては捜査員の抱える思いや関係性に焦点を当てたかったのかなと感じました。特にチーム長であるレッドフィンズとケース君のちょっと特殊な恋愛模様に着眼点が置かれています。
Case5ではマナ事件専任チーム内で発生した事件の解決に奔走することとなり、一気に事件の規模が小さくなったなと感じてしまいました。

確かに、Case1~4で丁寧に伏線を張っていたこともあり、説得力があるストーリーではありましたし、最後まで楽しんでプレイすることができました。

ただ、Case4で「Oppenheimer(原爆)」「ノア」といった異次元のスキルが関わる事件に巻き込まれ、管理局の異常性が明らかになったのに、そこにはあまり踏み込まず終了してしまったのが不完全燃焼でしたね。

確かに管理局の設定を考えると、その下部組織であるマナ事件専任チームが立ち向かうのは現実的ではありません。ストーリーをコンパクトに纏めるためにもCase5での展開は納得できます。

管理長や「ノア」級の容疑者に立ち向かうケース君や専任チームメンバーが見たかったという個人的なわがままです。ケース君は結局、管理局という大きな枠組みの中に捕らわれてしまったようにも思えるエンドではありました…。

チーム長の真実が明かされていく流れはまさに最終盤の盛り上がりではあるのですが、そこで終わるのではなく、チームとして結束を固めたうえで上位者に立ち向かう展開になったら理想的でしたね。Case6があれば…。

あくまで私にとって期待していた展開でなかっただけであり、作品としてはこの結末がベストだったかと思います。
Staffer Caseのプレイを通して改めて、作品全体の完成度と個人の期待はマッチしないということを想わされました。

その他

イマイチに感じた点はほぼ上記のみですが、他の細かい不満点も記載させていただきます。

・ケース君からチーム長への想いの分かりにくさ
チーム長→ケース君は丁寧に描かれていました。過去の経験を追体験できるパートもあり、ケース君に色々重ね合わせているんだなと思わされました。

しかしながら、ケース君が恋愛感情を持つに至った理由があまり納得できませんでした。
ケース君のバックグラウンド含めもう少し詳細が分かったらCase5もより感動的になったのかなと。

・演出の長ったらしさ
調査パート開始時に特に感じました。なんか間がやたら長いんですよね。
技術的な問題なのか、あえての演出なのかわかりませんでしたが、後半はスキップしたいな~と思ってました。

ボイスが無いゲームなのでテキストを読み終わったらさっさと次へ飛ばしたいのですが、ウェイトがやたらかかるのも多少ストレスでした。

総括

短いプレイ時間ながらも濃密なストーリーであり、単なる推理ゲームでは無い魅力を持った作品でした。

個人的期待と逸れる部分もありましたが、それでも納得できるような完成度の高さを誇っています。
値段的にも気軽にプレイしやすく、この価格帯では他の推理ゲームを圧倒していますね。今風に言うとタイパが凄い!

本記事を読んだ方は既プレイ勢かと思いますが、皆さんの感想を教えていただけたら幸いです。


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