[無料]登山でコンパスを使うための超基礎講座
「登山をする時は地図とコンパスを持ちましょう」とよく言われます。では、はたしてどのくらいの人が地図とコンパスを正しく使えているのか?
自信を持ってコンパスを使えますか?ただ持ってるだけじゃ意味ありません。ただのお守りになってませんか?という事で、今回はコンパスの使い方について超基礎から書いていきます。
なお、この記事で言うコンパスとはプレートコンパスを指します。シルバでもスントでもメーカーはどこでもいいのですが、四角い板に丸い部分が付いていて回るタイプのコンパスを用意してください。
なお、中国製で800円程度の安いプレートコンパスもありますが、ノースマークが赤で書かれていなかったりカプセルの動きが渋かったり、微妙に使いにくいです。良いものを買ってください。
コンパスの部位
地味ですが大事なのが各部位の名前です。
全部覚えなくてもいいのですが、磁針、カプセル、リング、ノースマーク、磁北線インデックス、インデックスライン、進行線は覚えてください(結局全部に近いですね)。これらを覚えていないと説明が成立しません。
以下で各部位の説明をしますが、名前だけ覚えれば細かい部分は理解できなくても大丈夫です。まずは名前だけ覚えてください。説明は飛ばしても構いません。
磁針
赤いほうが北を指します。ここで言う北とは、磁北のことで地球の地磁気上の北、磁北極を指します。北極点を指す北は真北と言います。真北は地軸の北極が基準です。反対側は南極点です。磁北と真北にはズレがあり、大きさは時代や地域よって変わります。現在の日本では磁北と真北のズレは約7°~9°程度です(実用上はだいたい8°と覚えてもいいです)。地図の上は真北なので、磁北とはズレがあります。それを補正するのが磁北線です。
では真北ではなく磁北を基準に地図を作ればいいと思うかも知れません。そうすれば磁北線なんか要らないと。ですが、真北と磁北とのズレは地域によって違うし時代によっても変わります。そのため、地図の基準としては使えないのです。
ちなみに、コンパスの磁針は磁石などの影響で南北が反転してしまうことがあります。登山前に南北が分かる場所で確認してください。逆だった場合は、強い磁石でなぞると直せます。
カプセル、リング
コンパス下部にある丸い部分がカプセルで、中にはオイルが入っています。くるくる回すことが出来て、この機能によりコンパスに方位角(目指すべき方向の角度)を設定することが出来ます。
カプセルの周りには0°~359°まで方位角が印字されています。0°が北、90°が東、180°が南、270°が西になり、N、E、S、Wと方向を示す文字が刻印されています。カプセルの周りの部分をリングと言います。写真のコンパスは滑り止めのゴムが付いています。安いコンパスはこのゴム部分がプラスチックで滑りやすく回しにくいです。
ノースマーク
カプセル内の赤い矢印をノースマークといいます。コンパスにセットした方位角と磁針の北を合わせるために使います。
磁北線インデックス
カプセル内に複数本走っている平行な線を磁北線インデックスといいます。詳しくは後で説明します。
インデックスライン
コンパスに方位角をセットする時の基準になる線で、固定されています。カプセルを回しても動きません。このラインにリンクの方位角をセットするのがコンパスの基本です。
進行線
コンパスに方位角をセットし、磁針の北とノースマークが合うようにコンパス全体を回すと、進行線の先が目標地点となります。他にも山座同定やクロスベアリングでは目標物を狙う照準として使います。詳しくは後で説明します。
コンパスの本質とは?
プレートコンパスとは『目標の方位が磁北から何度ズレているかをセットするための道具』です。
どういうことか?
コンパスを使って真南を向いてみる
例えば、カプセルを回して、方位角を188°にセットします。
方位角をセットしたら、もうカプセルは回しません。コンパスを両手で持って体の前に構え、体ごと回って磁針とノースマークを一致させてください。すると下の写真のようになります。
この時、コンパスの進行線及びあなたの体は真南を向いていることになります。
なぜ180°ではなく188°なのか?
上でも書きましたが、コンパスが指す磁北と地図の真北にはズレがあり、このズレを磁北偏差といいます。日本ではだいたい西に8°偏っています(大雑把に言えば九州が7°で北海道が9°、関東は8°くらい)。
西に8°の偏りを「西偏8°」と表現します。地図の端や裏にはその地図での磁北偏差角度が書かれていますし、最近の登山地図には磁北偏差を表す磁北線が最初から描かれています。
関東でコンパスを使って真南を向くには、南の180°に8°を足した188°をセットします。日本で使う場合は8°足せばいいと覚えてください。コンパス的には、西(左、反時計回り)に8°回す=8°足すという事になります。
ちなみに、外国では東に大きく偏ってる地域もあり、そこでは例えば東偏20°などと表現され、方位角は20°を引く(右、東に回す)ことになります。
コンパスを使って真西を向いてみる
では、コンパスを使って真西(地図の左)を向くにはどうしたらいいか?西の方位角は270°です。8°を足して278°をコンパスにセットします。出来ましたか?
だいたいでいいなら磁北偏差は忘れてもいい
大雑把に東西南北のどれかを示したいなら、もう8°足すことは忘れても構いません。
東を向きたいのなら90°、南を向きたいのなら180°をインデックスラインにセットして、磁北とノースマークが一致するようにコンパスを向けるとだいたい南を向きます。
コラム:山頂からの下山方向ミスに要注意
登山の道迷いで多いのが、山頂から下山方向を間違えるパターンです。南に下山しなければいけないのに北に下ってしまうという。コンパスなど使わなくても太陽の位置で気づきそうなもんですが、そういう間違いがよくあるようです。
南に下山するなら方位角を180°(正確には188°くらい)でセットして進行線の向きを見ればいいでしょう。
南を向いたとき、正面からやや右に太陽があれば本当に南を向いています。下山は大抵午後なので太陽は少し西に傾きます。南を向いた時の西は右手です。遅い時間なら西に沈む太陽が右横で光っているはずです。
南に降りているはずなのに、後ろの方から日が差していたり、下山中やけに暗かったら北や東へ向かっていることになります。すぐにGPSアプリなどで現在地を確認し、間違いに気づいたら横着せず登り返して正しいルートに復帰してください。そのまま下れば間違いなく遭難します。登山で「まぁいいか」と呟いたら、本当に良いのかよく考えてください。大抵はよくないから。
コンパスの使い方4種を説明します
以降で、コンパスの代表的な使い方を説明します。
地図の整置
目指すべき方位を調べる
山座同定
クロスベアリング
難しいかもしれないけど、出来るだけやってみてください。
1.地図の整置
地面と地図の向きを一致させることを整置といいます。分かれ道でどちらに行けばいいのか調べるときや周りの地形を読む時などに使います。
前提条件
地図に磁北線を引いてあること。無い場合は少しズレます。
現在地が分かっていること。整置の手順には関係ないが整置後に読図するには現在地が分かっていないといけない。
操作手順
地図の磁北線上にコンパスを置く
置いたらズレないように押さえる
磁北線と磁針が一致する様に地図とコンパスを一緒に回転させる
地面(コンパスの北)と地図の向きが一致する
下の写真が整置された状態です。
上の写真では見やすいようにコンパスの方位角を0°にしていますが、実際はコンパスの方位角はどうでもよかったりします。
下の写真のように、コンパスが変な方向を向いていても、カプセル内の磁針が磁北線と平行になっていれば整置されています。
整置できたら周りの道や地形を観察して、どう行動するか考えてください。この先自分がどういうルートを歩くことに予想しましょう(登るのか下るのか、狭い尾根なのか広い平原なのか?など)。
2.目指す地点の方位を調べる
現在地からどちらに進めばいいのか、その方位を調べる方法です。
前提条件
現在地が分かっていて、現在地と目標地点が地図のどこにあるか分かっている
地図に磁北線が引いてある。引いてない場合は垂直線で真北に合わせてから8°足す。
操作手順
現在地と目標地点を地図から探す。
進行線が目標地点に向かう方向で、現在地と目標地点の直線上にコンパスの長辺を当てる
カプセルを回して磁北線インデックスと地図の磁北線を一致させる。この時、ノースマークが地図の上部(磁北)を指すようにする。ノースマークが南を指したら真逆になってしまう。
コンパスを地図から外して体の正面に構える。カプセルはもう回さない。
コンパスのノースマークと磁針が一致する方向を向くと、進行線の先が目標地点
上の地図で見た感じ、現在地から見た目標地点は左下、南南西くらいの方向です。南南西の方位角は「180+22.5=202.5°」です。これに西偏8°を足して210°くらいですね。上の例では磁北線を使って214°にセットしていますが、大雑把に見た210°も、そんなに大きくは外していません。
つまり、「現在地と目標地点に長辺を当てて磁北線インデックスと磁北線を一致させる」という作業の本当の意味は、進むべき方位角を割り出すための作業となります。実は方位角の数字さえ分かればいいのです。
地図を見て、なんとなく「南に行けばいいんだな」と分かったなら188°をセットすればOKという事になります。
ジオグラフィカの方位角機能
拙作のジオグラフィカでは、マーカーをタップするとポップアップの右上に磁方位という方位角が表示されます。下の例だと284°です。
これは現在地からマーカーへの方位角(磁北偏差補正済み)で、地図にコンパスを当てて磁北線を云々、という作業の結果得られる数字と同じものです。
現在地から任意の地点の方位角(磁方位)は、センターマーク長押しからでも見ることが出来ます。マーカーを使っていない地点の方位角を知りたい場合はこちらの使い方になります。
また、マーカーのロックオンやルート案内機能を使うと、インターバルスピーチ機能で「磁方位xxx度」と方位角を喋ります。聞き取った角度をコンパスにセットすれば、スマホを見なくても目標地点の方位が分かります。
3.山座同定
見晴らしがいい場所から見えている山や建物が地図上のどれなのかを調べるのが山座同定です。
前提条件
現在地が地図のどこなのか分かっている
ある程度広域の地図を持っている
視界がよく遠くの目標物がよく見える
操作手順
コンパスの進行線を調べたい山などに向けて、照準を合わせる。
カプセルを回して、磁針の北とノースマークを一致させる。これでコンパスに目標物の方位角が設定された。
コンパスの長辺を地図上の現在地に当てる。
磁北線インデックスと磁北線が一致するようにコンパス全体を回す。この時カプセルは回さない。磁針の向きは関係ないので磁針は無視する。
ただし、山が連なっていると3°程度のズレでも区別が難しいですし、遠い山はズレが拡大されるので更に難しくなります。適度な距離の明瞭な山で練習してみてください。
今どきは、PeakFinderなど便利なアプリもあるので併用するとよいでしょう。アプリは有料ですが$5程度(800円くらい)です。激安ですね。
4.クロスベアリング
名前が何か分かっている山や建物の方位角を2つ以上計測し、現在地が地図のどこなのか調べる方法です。実際に使えるシーンは限られており、私も実際の登山で使ったことはありません。
前提条件
名前が分かっている目標物が2つ以上見えている。つまりある程度の土地勘と良い天気
目標物同士の方位角が45°以上離れている
ある程度広域の地図を持っている
操作手順
コンパスの進行線を、「名前が分かっている目標物その1」に向けて、照準を合わせる。
カプセルを回して、磁針の北とノースマークを一致させる。これでコンパスに目標物の方位角が設定された。ここまでは山座同定と同じ。
コンパスの長辺を、地図上の目標物に合わせる。
磁北線インデックスと磁北線が一致するようにコンパス全体を回す。この時カプセルは回さず、磁針の向きは関係ないので無視する。
長辺に沿って直線を引く。
「名前が分かっている目標物その2」に対して1~5までの手順を行う。3点目があるなら同様に線を引く。
線の交点が現在地。
クリップボードがあると便利
山座同定やクロスベアリングは地図に線を引くため、筆記用具が必要です。クリップボードのような、板状のものがあると更に便利です。
クロスベアリングの欠点
クロスベアリングは、樹林帯では使えませんし、眺望が良いはずの場所でもガスっていれば使えません。天気が悪い時はほぼ無理です。また、名前が分かっている目標物が見えないと使えないので、初めての山域など、慣れていない場所では使えないことが多いでしょう。
都合のいい目標物か2つ以上あっても、方位角が近すぎると測位精度が低くなってしまいます。
使うための前提条件が厳しく、実際に役立つことは稀です。実際にはGPSアプリなどを使ってしまったほうが手っ取り早かったりします。
とは言え、コンパスを使えるけど普段はそんなに使わないのと、理解していなくて使えないのとは意味が違います。スマホやGPSが使えない状況になったときでもコンパスを役立てることが出来るように手順と理屈は覚えておきましょう。
コンパスはお守りではありません。キチンと使えば便利な道具です。正しく使ってください。で、マスターしたら友達に使い方を教えてあげましょう。自分が先生になるのは、とても良い勉強になります。
まとめ
コンパスの部位名称は覚えてください。
コンパスとは、目標物の方位が磁北から何度ズレているかをセットするための道具です。
日本の磁北偏差は、大雑把に言えば西(左)に8°です。西に8°とは、8°足すと解釈してもいいです。
整置と目標物の方位角測定はマスターしましょう。
山座同定とクロスベアリングは、とりあえず理屈だけ理解してください。実践する機会はあまりありませんが。
ある程度長く山に登っているのなら、プレートコンパスくらい使えるようにしておくのが登山者の嗜みです。