貨幣の定理
ここまで説明した貨幣(お金)の仕組みから、以下が導かれます。これは、算数レベルの原理です。「考え方、捉え方」では決してなく、必ず成り立つ定理であることを、しっかりと理解しましょう。
静的な側面:ストック
これまで見てきたように、お金とは、生まれるときには資産と負債が対生成し、消えるときには資産と負債が対消滅します。したがって、どのタイミングであっても、総資産と総負債は、必ず同じだけ存在します。
厳密には、補助通貨(小銭)である硬貨は資産のみで存在するため、その分は資産過多です。ただし硬貨の総額は国家全体でみると微々たるものなので、ここの議論では無視します。
ある主体が純資産状態(資産>負債)であれば、必ず純負債状態の主体が存在します。複数に分散している場合もありますが、同じ分の純負債が存在します。
同様に、ある主体が純負債状態(資産<負債)であれば、必ず純資産状態の主体が存在します。やはり複数に分散している場合もあります。
この帰結として、全ての主体が純資産状態にはなり得ませんし、全ての主体が純負債状態にもなり得ません。
例
日本円を持つすべての主体を3つの組、A・B・Cに分けたとします。Aが純資産100、Bが純負債70であれば、Cは自ずと純負債30です。資産総額=負債総額=貨幣総額(下図例では、300)は、無関係です
動的な側面:フロー
黒字とは、ある期間に、純資産が増えた(もしくは純負債が減った)ことです。
赤字とは、ある期間に、純資産が減った(もしくは純負債が増えた)ことです。
注)純資産状態のことを黒字、純負債状態のことを赤字と呼ぶ場面を見かけますが、これは間違った使い方です。
収支決算で収入が支出より多いことを黒字と呼び、収入が支出より少ないことを赤字と呼びます。
これはすなわち、決算期間のはじめと終わりの間の、純資産・純負債の変化のことを指します。
ある主体が黒字化すれば、同じ期間で必ず赤字化する主体が存在します。複数に分散している場合もありますが、同じ分の資産減(負債増)が発生します。
同様に、ある主体が赤字化すれば、同じ期間で必ず黒字化する主体が存在します。やはり複数に分散している場合もあります。
この帰結として、全ての主体が黒字にはなり得ませんし、全ての主体が赤字にもなり得ません。
例
日本円を持つすべての主体を3つの組、A・B・Cに分けたとします。Aが赤字70、Bが黒字90であれば、Cは自ずと赤字20です。期間中に資産総額=負債総額=貨幣総額が増減した(下図例では、300→350)としても、関係ありません。