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春はあけぼの

 聞こえるのは、自分の息遣いと足音。落葉が進み、木々の合間から少し広く見えるようになった空は優しさをたたえながら、次第に色を失い始め、それが少し不安な気持ちにさせる。まるで、人は人のもとに返ることを促すように。
 別に一人でいるわけではない。他人と目を合わせ、言葉を交わす。モニターの向こうの電子的な背景の後ろを想像し、にやにやもする。キーボードは、私の第二の声帯だ。言葉を紡ぎ、ネットの波間に私を乗せた舟を走らせる。でも、それは私の表面だ。
 長い長い道を一人で歩いている。走っているかもしれない。目指す頂はある。いや、あったかもしれないし、なくても特にかまわない。それは、自分だけの頂、きっとそうだと思う頂へ続く道だと信じて歩いている。

 服ずれの音。落ち葉がカサカサ。つま先で地面をける。ギュ、ジャリ。ただそれだけ。静寂。

 木々が切れて、空が目の高さに降りてくる。夕日。

夕ゆふ日ひのさして、山やまの端はいと近ちかうなりたるに、烏からすの寝ねどころへ行いくとて、三みつ四よつ、二ふたつ三みつなど、飛とびいそぐさへあはれなり。

枕草子

そうだね。今日は帰ろう。ただいま、と言える人のところへ。戦っていない私に。 
 


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Keiyama
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