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約束の場所(短編小説)
執筆者
#有度の里 #Ishikawa・Hironao
桜と高齢者に関する物語を書いてみました。この物語はフィクションであり、実在の人物と団体とは関係ありません。
桜の木の下で健康を確かめ合う
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都会から離れた小さな町。
春の訪ねが待ち遠しく、桜の木が公園が町の住民たちの憩いの場所だった。特に高齢者たちにとって、桜の花が咲く頃は、年に一度の大切なイベントだった。
中でも、86歳の村上道雄と、83歳の佐藤春江は、毎年この桜の下でお互いの健康を確かめ合っていた。二人は幼馴染で、時が流れる中で家庭を持ち、子供を育て上げた。
しかし、桜の花が咲くこの時期だけは、子供時代の約束のように、公園の一番大きな桜の木の下で再会していた。
「春江ちゃん、今年も来てくれたんだね」
「道雄くん、元気そうで何より」
年を重ねるごとに、二人の歩みは遅くなり、会話も少なくなった。しかし、桜の花の美しさや、春の暖かさは変わらなかった。
春江の悲しみ
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ある年、春江が足を怪我してしまい、桜の季節に公園へ行けなくなったが、道雄は春江の家まで桜の花を摘んで持ってきてくれた。
「公園まで来れなかったから、公園の桜を持ってきたよ」
春江は涙ぐみながら、「ありがとう 道雄くん」と微笑んだ。
時が流れ、春江の足も完治し、再び桜の季節がやってきたが、その年、道雄は公園に姿を現さなかった。春江は道雄の家を訪ねると、彼は春を迎える前に静かに眠りについていた。
春江は公園の大きな桜の木の下で、道雄が摘んできれくれた桜の花を手に、ひとり涙を流した。しかし、彼女の目の映る桜の花は、彼と過ごした日々の中で最も美しく、そして最も悲しいものとなった。
桜の木が約束のシンボルになっている
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翌年、春が来ると、公園の大きな桜の木の下には、新しく植えられた小さな桜の苗木があった。横には小さな石碑が立てられおり、「約束の場所」と彫られていた。
町の人々は春江が亡くなった道雄の思い出とともに、新しい桜の木を植えたのだと知り、感動の声が上がった。この新しい桜の木は、町民にとって約束と再会、そして時を超えた愛の象徴としてシンボルになっている。
年々、その桜の木は大きく成長し、春が訪れるたびに美しい花を咲かせる。そして,町の人々はその桜の下で、愛する人との大切な約束を交わすのだった。
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