第20話:科学に使う推論は問題が多い
前回のおさらい
マーケティングと科学哲学の相性がいいというお話をしてきました。その中でも推論が有効であるということで、演繹法と帰納法のお話をしてきました。演繹法は前提条件が正しければ説明としては正しくなることがおおいですが、この前提条件や、仮説の設計が難しくなります。そこで使えるのが帰納法です。帰納法は枚挙的帰納法
やアブダクション、アナロジーなど色んな方法があることをご紹介しました。だいたいこれぐらい知っておくことができれば推論を使いこなすことが出来るでしょう。
ただ、今回は推論の応用編です。科学に使う推論って実は問題が多いということを知っておくことでより使いこなすことが出来ると思います。
推論は万能か?
推論はとても便利です。ですが、それぞれのウィークポイントを知った上で使うことが求められます。
前段のところで、演繹法は正しい前提を使い正しいルールを正しく利用すれば、「正しい」回答に至ることが出来ると申し上げてきました。反対に、正しくない、適切でない前提を利用すると、結論が間違ってしまいます。先入観や偏見に満ち溢れた前提を出してしまうと間違ってしまいます。
帰納法にも欠点があります。帰納法は法則を「抽出する」「見抜く」段階で主観やセンスが入らざるを得ず、飛躍が生じてしまいます。また、事例を全て網羅するか、全て網羅できるぐらいの論理証明ができないと帰結(帰納した結論)に至れません。確実的な真理ではなく、ある程度の確率を持ったものに過ぎなくなってしまいます。
こうしたウィークポイントを知っておくことが誤った論理的思考に至らないようにするために必要だと思いますので覚えておきましょう。
帰納法の完全じゃない点
帰納法が完全ではないことを机と椅子の例をもってご紹介していきたいと思います。
まず、机と椅子のリストを全部用意します。
その中で座れそうなものを椅子、物をおいて使いそうなものを机と仮定しましょう。なるほど、そうすると上の画像だと左側が椅子っぽいし、右側が机っぽいですね。真ん中がどっちだろう、、、と思う感じですね。
しかし、、、、
机と椅子のリストをすべて用意することは現実的には不可能です。
また、私が挙げた「座れそうなものを椅子、物をおいて使いそうなものを机」という仮定が完全ではありません。
すなわち、どちらが椅子でどちらが机であることはなかなか証明することが難しいわけです。
こういった考え方はAIの技術にも応用されています。AIの場合は枚挙的帰納法に近く、なるべく多い学習データを用意してどちらの傾向にあるのかということを表す事ができるわけですね。ただ、その仮設を設定するのはもちろん人間なのでより確かな人工知能を作るためには仮説設計が非常に大切で、その仮設や前提部分が誤っているものであればおそらく正しいAIでの判定ができないとなるわけです。
誤った証明をしないために
誤った証明をしないために4つの方法をしっかりととっておくことが求められます。これも覚えておくと非常に便利なのでぜひ覚えてください。
1.誤謬の原因の排除
・イドラの排除
先入観や偏見を排除しましょう!
・明晰性
曖昧を排除しましょう!
2.分析と総合
・複雑な問題は分解しましょう。
・単純な問題の解決結果を、それらの関連性に基づいて再構築し、複雑な問題の解決へと進みましょう。
3.枚挙と消去
・可能な限りすべての事例や仮説を揃えましょう。
・背理法などの選別手段をつかい事例や仮説を排除していきましょう。
4.検証
・客観的批判
自説に都合の悪い事例や仮説でも敢えて取り上げて検証しましょう。
・実験、照合をしましょう。
こうすることでそれぞれのウィークポイントをなんとか排除していくことが可能になります。実践としてのマーケティングには完全理論は必要とされていないのでこの程度で十分でしょう。
まとめ
実践的なマーケティングは、現実を見極める能力がとても大切な業種です。ただ、センスだけでは完全にカバーできるものでもなく、さらにはそれを他人に伝えなければなりません。
現実を見極めるためには推論と論理的思考が大切になります。推論には、演繹法と帰納法が有効な手段として使われてきています。でも、問題点がたくさんある。その問題点を研究しているのが科学哲学です。なるべく、問題を排除するために科学哲学の知識を学んで使えるようにすると良いのはそういう意味なのです。
特に帰納法がやっかいで、帰納法は問題点が多いので、使わなければいいと思いがちですが、使わないと仮説が立てられません!でも、問題点が多い。
この現実をどうすればいいんだ……となってしまいます。
最新の研究では、とても哲学的な結論に至りつつあって、「宇宙の我々がいる場所は、帰納が役に立つような場所である。」と言われています。要するに、なんだかんだ、帰納するようにこの世はうまくできていると言われているそうです。
この世界で、世界を理解する活動が科学です。その科学が現象をありのまま捉える活動が科学哲学。その科学哲学を学んでマーケティングに活かしましょう!
次回からは社会学のお話をしていきます。
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