第22話:マルセル・モースの贈与論とマーケティング
前回のおさらい
マーケティングには社会を見極める力が必要です。その社会を見極めるために社会学を学んでいきます。その社会学の社会って実は日本では世間を指しているというお話をしてきました。個人でも社会でも身内でもない中途半端な存在の世間です。
世間を利用したマーケティングや消費考えてみてください
世間を利用したマーケティングや消費の例を考えてみてください。日本独特の風習から、輸入されたマーケティングがジャパノイズされたものまでたくさんあると思います。
例えば、
お中元やお歳暮。夏や冬にお世話になった人たちに贈り物をする風習です。今となってはこのような文化は廃れつつありますが未だに時期になるとスーパーではお中元やお歳暮コーナーができますし、CMでもひっきりなしにこのようなCMを見るでしょう。
次に、年賀状。
これも同様に衰退しつつある文化ですが、未だに年賀状を贈り合う人はいるのでは?「イエ」として贈る年賀状は未だにあるのではないでしょうか?特に、私はこの「イエ」として贈る年賀状の範囲が世間の範囲なのではないかと考えています。
最後に、バレンタイン。
バレンタインデーは、女性から男性へ愛のしるしとしてチョコレートを送る文化ですが、なぜか日本では「義理チョコ」文化があり、お世話になっている人に贈りあう文化があります。
その中でゴディバが「義理チョコやめませんか?」という逆説的な広告を打ち出したことは記憶に新しいと思います。
世間を利用したマーケティングの特徴は
世間を利用したマーケティングの特徴は何だと思いますか?
贈り物をしあうということにあるのではないでしょうか?
これらの関係を表すワード「贈与/互酬」関係です。
世間は、贈与・互酬の関係で成り立っています。これについて研究しているのは、文化人類学のマルセル・モースです。とはいえ、マルセル・モースは日本の文化を研究したのではなくて、未開の民族の贈与互酬の関係を研究しているのであしからず。
これから、マルセル・モースの研究を参考にしながら、これらのマーケティングについてお伝えしていきます。
バレンタインデーの贈り物をもらったら、ホワイトデーでお返ししなければならない。もらいっぱなしではいられない。なんか返さないと「ムズムズ」してしまうそんな社会関係を表す言葉です。
贈与は文字通り与えること。互酬とは「自分が受けた贈り物、サービス行為、または損害に対して何らかの形でお返しする行為」の事を指します。
マルセル・モースの「贈与論」
マルセル・モースは、社会関係を維持する上で、贈り物をして、贈られるものを受け取り、お返しすることは「道徳的義務行為」であると述べています。彼は、ニュージランドのマオリ社会の贈与慣行から説明しました。
モースの研究によると、マオリ族では、贈り物には送りての霊的本質(ハウ)が埋め込まれており、その霊が絶えず「元の古巣」へ帰りたがっているというものです。したがって、貰い手はお返しの品物のにその霊を乗せて送り返すのです。もし返戻しないと、貰い手は送り主の例によってマテ(病気・死)になると恐れられていました。
彼は、ポリネシアの伝統社会だけでなく、アメリカ北西海岸のインディアンのポトラッチ、古代ヒンドゥー法、ローマ法、ゲルマン法などとも比較し、贈与交換法則は、人類社会の根源的な社会統合の原理であることを明らかにしました。
贈与は主従関係を生み出す
贈与や互酬は、二者間に友好的関係を築き、その関係を確認し合ったり、対立する二者を仲直りさせる方法である一方、社会的な力関係を生じさせる手段ともなります。
例えば、おごる事によって奢られた側はその人の配下になる関係を誇示することが出来るのです。
やたらとおごりたがる人は、権威を誇示するためにおごるということをしていることが言えますし、奢られ上手い人というのは、積極的におごられることで、あなたのコミュニティに属していますよというアピールをしているわけです。
与え、与えられる関係があることで社会または世間が安定するわけです。そこにあえて踏み込んでいったゴディバは恐ろしや〜です。触らぬ神に祟りなし。
まとめ
世間が利用されているマーケティングは、お歳暮や、年賀状、バレンタインなどがあります。そこには1対1の関係ではなく、「世間」対「世間」という非常に曖昧な関係が生まれています。そこに贈与互酬という昔の人間社会にあったものが組み合わさったものが、お歳暮などの文化なのでしょう。
特に贈与互酬の関係に詳しいのがマルセル・モースです。
与え、与えることで社会的地位を明らかにして社会やコミュニティ、世間を安定させるわけです。
このような社会の構造を知ることで、今ある社会や世間を知っていくことができます。次回はこれらの贈与互酬のマーケティングを深堀りしていきます。
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