読書メモ 教団X

前回が軽めの短編ミステリだったので、重めにしようと思っていた矢先、
家の積読から本書を発掘。
オードリーの若林さんとかのオビの謳い文句につられて買ったものの、分厚くて読むのやめちゃったんだよな。。。と思い出し再挑戦。何とか完読。

不思議な読後感でした。
というかミステリ読んでたからか、ちょっと結末がフワッとすると「ん?で、これって結局なんの話だったの?」ってなってしまうの良くないですね。。。
何でもハッキリ終わるものでもないでしょう。人の生きざまなんか、結論付けられるものでもないでしょうから。
ド素人の考えですが、文学とか文芸ってそういうことなんでしょうか。梶井基次郎の『檸檬』なんて、ストーリーっていうと、ただ「丸善にレモンを置く話」になっちゃいますからね。

ただ大変失礼ながら、こちらも要約すると
「教団が自滅する話」
でした。ストーリーっていうと、それしかない気がしてしまう。

ともあれ、すごくテーマが広い。
善と悪とか、戦争と平和とか、国家の裏の顔とか、はたまた宗教学的なところや量子力学や宇宙の始まり、それに絡めた哲学(我々は何者で、どこへ行くのか)なんて所まで。。。それでいて、個々の登場人物の人生や苦悩にもフォーカスを当てる。著者渾身の一作、という感じでしょうか。

私自身は作中の松尾の話に共感しました。
というか、かつて中二病の思索に耽っていた時にボヤっと考えていた、自分の存在ってなんなんだろ、とかいうやつを、はっきり言語化してくれた、という感じでしょうか。笑

(以下、作中の話は踏まえていますが、諸々正確に理解している訳ではないと断っておきます。。)

人間も含むすべては突き詰めれば小さな粒子の活動でしかなく、じゃあそれが仮に物理現象としてシミュレーションができるのだとしたら(何らかの理論で挙動が説明可能なら)、我々は自分の意志で動いていると感じていても、実はすべてが理論上予測可能、つまり運命というものが存在しうるのではないか。

ただ、量子論の不確定性原理ではそれは出来ないということになっていて、確率でしか語ることはできない。であるならば、その、何らかの確率というものが我々の意志(意識)というものではないか。
しかし、すべてが確率といっても、確実に起こりえない事は世の中無数に存在する(人からいま突然翼が生えて空を飛べるようになるとか)、ということを思えば、人類の誕生というものも、まったくの偶然ではなく、初めから、宇宙には人類の誕生の可能性が満ち満ちていたのではないか。つまり生まれるべくして生まれたのではないか。そして我々は、その生をどう全うすれば良いのか。

うーん。自分なりに書いてみたけど難しい。。。

あるいは、人間が死去して燃やされても、一見無くなるように見えて、燃焼というプロセスを経て物質が変容しているだけで、当人を構成していたものが世の中から完全に消え去った訳ではなく、それらは循環し、また土地を成したり他の生物の体を成したりする、だから今自分の体を構成している分子・原子も、ひょっとしたら昔の人や古代の生物を形作っていたものかもしれない、という話、なんだかロマンがあって好きでした。

ということで、松尾の話が面白かったな~と。あと彼の死に様が憧れますね。著者ロマンチストだなと。

なので、肝心の(?)教団X側の話の方が、個人的にはサブになってしまいました。
性行為をとにかくしまくるカルト教団なんで性的な描写が多いんですが、そんなにページ必要かなって思ってしまった。
人間の根源的な欲求とかを取り繕うこと無くしっかりさらけ出す、というのを確実にやり切る意味では必要なのかもしれませんが、あまりしっくり来ない。他にも人間の欲求って多種多様にあるんじゃないかと。
まぁ似通った性格(性癖)の人が集まったから教団が出来るとも言えます。

でも面白かったのは、カルト教団という先入観で「悪」と決めてかかっていましたが、必ずしもそうは言えないと言う所。
日本でも実際、カルト教団によるテロ事件などがあったから、完全に悪だと決めてかかってました(もちろん罪を犯してるのでそうとは思うのですが)が、彼らの人生や苦悩が詳らかに語られ、また国家権力の暗部の話も相まって、善悪というものの曖昧さを感じました。悪とされども、彼らも救われたかった者達だったのだと。

と、なかなかに重厚なものでした。
一度では理解しきらないけれど、
もう一度読むには気合いが要ります。
あと電車で読むには重たい(物理的に)。

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