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あなたのそばに寄り添う物語〜ゆっそ「アザミは空を見上げる」
【はじめに】
これを読んでくださっていて、ゆっそのことをご存知ない方は恐らくいらっしゃらないと思うが、簡単に彼女のことを紹介しておこうと思う。
京都出身、ネガティブな感情も大切にしたいと「物語」を歌っているシンガーソングライターである。
関西では本当の意味でインディーズ(何から何まで自分たちでやる)のアイドルグループで活動していたが、脱退後にパンツをギターに持ち替え(笑、詳細はご本人のnoteなどを参照)、上京して路上やライブハウスで歌い始めた。
活動当初は不遇だった10代の頃の感情を歌った曲が多かったが、徐々に作家性の強い作品も発表し始め、2024年には「毎月新曲配信ワンマン」と題し、1年かけて毎月新曲とそれにまつわる短編小説の発表を含めた配信ライブを成功させた。出来上がった珠玉の12曲はスタジオでもレコーディングされ、リアル開催された12月のFinalライブからCDで発売された。それが「アザミは空を見上げる」である(配信ライブと同タイトル、Finalの感想はこちら)。
https://note.com/keith6372/n/ne28f2238e346?sub_rt=share_pw
【ゆっその楽曲】
初期のゆっその楽曲は主に「私」をテーマにしたものだった。それは単なる私小説ではい。過去の自分を客観的に回想し、頭を撫で、手を差し伸べ、一緒に未来に向けて歩き出すための魂の歌である。
「14歳」では学校に行けなくなり、両親への複雑な想いに悩み、死すら意識した当時の自分を癒し、「丸裸」では生きている価値すら見出だせなかった自分と決別し、音楽と共に歩む決意を力強く歌っている。
彼女によれば、寂しく辛かった10代の頃に心の支えとなり、寄り添ってくれたのが「物語」だったそうだ。図書館に入り浸って読んだ本はいつでも彼女のそばにいてくれた。昔つらかった人たち、今つらい何かを背負っている人たちにとって、自分の音楽がそんな存在になれたら嬉しい…、そんな思いで作られているのが、最近の楽曲「物語」たちだ。
【ゆっそのライブ】
彼女との出会いは過去のnoteにも書いたので興味を持っていただけたら、そちらもお読みいただきたい。
私は「丸裸」を聴いて涙し、魂を揺さぶられた。秀逸なメロディ、歌唱力、表現力はもちろんのこと、それらを超えた何かを感じたのだ。
それ以降、前述の「毎月新曲配信ワンマン」は全通、ブッキングや企画のライブも足繁く通った。
何回も通っていると、そこでふと気づいたことがある。複数のシンガーソングライターがブッキングされたほとんどのライブで、ゆっそは明らかに異質なのである。はっきり言うと浮いている。
それはそうだ、2、30代の女性ミュージシャンを集めれば恋愛などをテーマにしたポップな曲が多くなるのが当然だが、そんな中で「私の価値はたったの2万」(18歳)などと歌えば馴染むはずがない(ただしMCになれば普通の可愛らしい女性なので、そのギャップに聴衆は更に置いていかれる…)。
私は元々ロックンロールやパンクロックが大好きで、飽くまでもそのカテゴリーの中での弾き語りに魅力を感じるタイプである。一番のアイドルは元祖パンクロッカー、ジョニー・サンダースで、彼の弾き語りアルバム「ハート・ミー」をこよなく愛している。そう、ゆっその楽曲をロックの感覚で聴いているからこそ支持しているし、そんな彼女は浮いていても当然なのだ。
そして最近思うのだが「丸裸」を初めて聴いた時のあの感覚、あれはジョン・レノンの初のソロアルバム「ジョンの魂/PLASTIC ONO BAND」、特に「MOTHER」を聴いた時のそれに近かった。ロックはスタイルではない。マインド、ハート、ソウルそのものなのである。
(ただし、ゆっそはロックに詳しくないのて、次章を含めてピンとこないと思うが…)
【アルバムについて①サウンド】
元々この文章は、前述のアルバム「アザミは空を見上げる」のライナーノーツのつもりで書き始めた。ゆっそともその書き下ろしを約束していたが、大幅に時間がかかってしまった。
しかし1ヶ月間とにかく聴きまくった。その度に感心、感動し、新たな発見があった。
そして行き着いたのが、このアルバムは「ゆっそ版ホワイトアルバム」だという感想である。
ホワイトアルバムという名で呼ばれる「THE BEATLES」のことをここで詳しく説明する必要はないだろうが、既にバンドとしては崩壊寸前、それぞれのメンバーのソロに近い楽曲を持ち寄り、録音を進め、全体的にはビートルズらしく纏め上げて体裁を整えた。そんな評価がされるアルバムである。
ゆっそは変幻自在のバリエーション豊かな楽曲で、個性豊かなビートルズメンバーの持ち味を意図せず再現してしまった、そんな万華鏡のように煌びやかな作品、それが「アザミは空を見上げる」である。
ゆっそ本来の持ち味をビートルズのメンバーに例えるなら、間違いなくジョンだ。「アザミ〜」のオープニングを飾る「蜜月と呪い」や「独白」「卵」は(飽くまでも作曲面で)ブルースというフィルターは通っていないものの、「YER BLUES」「I WANT YOU」、ソロの「WORKING CLASS HERO」辺りのダークな世界観に通じる印象を受ける。
またジョンには彼ならではの優しい旋律の名曲も多数存在する(「IN MY LIFE」「WOMAN」など)が、今回のゆっそのアルバム収録曲「少女たち」はそのタイプの名曲である。
ただこのアルバムがビートルズ風の印象を受けるのは、そういったジョンを感じる要素が多いからだけではない。
2曲目のコミカルなメロディや歌唱(ただしエンディングはホラー)が展開される「素敵な日々」はどこかリンゴのボーカル曲を彷彿とさせるし、既にライブの定番になっている佳曲「春の蝉」を聴くと、ビートルズの各アルバムにおいてアクセントとなるジョージの作品が頭をよぎる。
(ソロの「MY SWEET LOAD」辺りに近い印象。またビートルズフリークの奥田民生のニオイもする)
そしてこのアルバムの一番の聴きどころとも言えるのが、苦しみの後に辿り着いた音楽を奏でる喜び、生きる喜び、支えてくれる仲間や応援してくれるリスナーへの感謝、決意などを綴った、これまでのゆっそにはなかったポジティブソング、「誕生日」と「声」である。
この2曲はゆっその「LET IT BE」であり、「HEY JUDE」である。本人の作曲方法を耳にしたことがあり、結構イージーな感じで驚いたのだが、実はポールのような天才的な閃きを持ったメロディメーカーなのでは?と思うことがある。
今後も、この2曲に続く前向きな歌詞を乗せた名曲が生まれる可能性を、私は信じてやまない。
【②歌詞の世界】
毎月新曲を発表していくということで、テーマや歌詞についても季節感を含め、変化をつけていこうという意図があったと感じられる。加えて昨年の配信ライブでは、その世界観をより深く理解してもらうための短編小説の朗読というコーナーも設けられたため、内容はこれまでの作品より更に物語性が強まった。
化物と勇者の究極の愛を歌った「蜜月と呪い」、閉ざされた生活の中で愛する人の子を身籠り、育てることに人生の光を見出す女性を描いた「卵」のようなドラマ性の強い作品や、ゆっそ版リトル・マーメイド「泡になんて絶対ならない」、世界崩壊前夜の感情を綴る「独白」などのシネマティックな世界もあるが、多くは青春小説である。
微妙な男女関係を描く「最愛の夜」や「缶チューハイと予感」、学生時代を回想する「煌々と」や「少女たち」といった作品は彼女の日常の感覚から生み出された等身大の作品群である。
特筆すべきは、ここでも「春の蝉」だろう。
テーマとしては従前からゆっそ楽曲で多く取り上げている、「多様性」「個性」についての考えや、それぞれが自分らしく生きていける世界の在り方を歌った曲であり、決して彼女にとっては奇をてらったものではない。
ただこれまで同様のテーマで書かれた多くの曲においては、「主人公=私」であったのに対し、本来夏に鳴く蝉を擬人化し、春に鳴いてもいいじゃないかと歌うこの曲は、そのシンプルで美しいフォークロック調のメロディとも相まって、我々の心に強く訴えかける。短命で儚い蝉に着眼したこともセンチメンタルで惹きつけられる。既に頻繁にライブで歌われる人気曲となったのも頷ける。
【2025年のゆっそ】
毎月新曲配信ワンマンによって12曲のレパートリーを増やし、今年は10月18日に渋谷のLA.MAMAで行われるワンマンライブに向けて走り始めた。これまで通りの弾き語りスタイルで100名の集客を目標にしている。
このアルバムからのナンバーももちろん多く取り上げられるはずであり、どのようなセットリストとなるのか今から楽しみである。
代表曲「丸裸」で「いつかあなたのために歌えますか」と歌った彼女は、本作品のエンディング「声」で、「まだ答えは出ないけれど、あの頃よりは笑えているよ」と結んでいる。
彼女は既に多くのリスナーのそばに寄り添ってくれる物語の語り手であり、もちろんいつも私のそばにもいてくれる。
しかしLA.MAMAでは是非、自分のために笑顔で歌ってほしい、そう切に願っている。
ワンマンライブの詳細はこちら
https://x.com/yusonau/status/1845473922290245848?t=Mg19cg8ChLEZCC6Hew7IbA&s=19