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ライブハウスにおけるノルマ制度についての個人的な意見。


まず前提として、この記事は個人的な考え方と意見であって、誰かを批判したり否定しようとしたりするものではありません。


本来であればアーティストがライブハウスに出演する際にノルマをいくら課せられているとか、逆にいくらのチャージバックをもらっているかなんてのは、お客さんやファンが知るべき情報ではないと僕は思っています。


「知るべき情報ではない」という表現が正しいのかどうかも分からないけれど、音楽が好きでライブハウスに通ってくれているお客さんやファンの人達の「音楽が好き!」とか「応援するぞ!」っていう純粋な気持ちのなかに、そういった情報は本来なら別に必要ないもの、というのが僕の考えです。


ただ昨今では主にSNSを通じて、ライブハウスの方やアーティストが目に見える形でノルマ制度やギャランティに対して議論していたり、問題提起をする場面も見られるようになってきたので、お客さんやリスナーの方々にも「ライブをするのも無料じゃないんだな」みたいな意識は浸透しつつあるのかなと。


でも中には普段のライブでもギャラをもらって活動していると思っている人や、お客さんが払ったチケット代が丸々アーティストの懐に入っていると思っている方もいると思います。


冒頭からいきなり夢をぶっ壊してしまうのだけれど、そんな好条件でライブ活動をできているのは、本当にごく一部の人気アーティストだけです。


ノルマ制度を廃止するべきか適用するべきかの意見はきっとそれぞれで、ライブハウス側とアーティスト側でかなり視点が違ってくる部分もあると思うので、今回の記事ではあまり触れないでおこうと思っています。


どっちも生きるために必死ですし、どっちも好きな仕事を続けていくために必死なのです。



そして、チケットノルマというのはアーティストにとっての「ライブ出演料」では決してないということです。


「お金さえ払えばライブができる」というものではないし、どのライブハウスもお金さえもらえればそれでいいなんて思ってなくて、できれば沢山の人の前でライブをしてほしいと思っているはずで。


ただライブハウスもボランティアではなく立派な事業なので、イベントの質を保ちつつ、お互いがやっていけるギリギリのラインで目標値を定めているのかなと個人的には認識しています。


いまの時代の流れでいうと、ノルマ制度を適用するライブハウスはどんどん減っていっている気がしてますし、昔に比べるとアーティスト側も活動しやすい環境にはなっている気がします。


僕はちょうどその流れの転換期くらいにライブ活動をし始めているので、活動を始めて3〜4年くらいはノルマがあるライブがほとんどでした。


だいたいその頃よくあったシステムだと、弾き語りで多かったと記憶しているのが


1500円チケット×7枚ノルマ
2000円チケット×5枚ノルマ


とかだったかなと思います。


これでもたぶん安いほうで(安いor高いという表現はあまりしたくないですが)、内容や場所によっては2000円×10枚とかでしたし、バンドだとこの枚数が一気に跳ね上がったりします。


ライブをやり出した頃なんてもちろんファンもいないし、たまに友達に頼み込んで来てもらうような活動だったので、ノルマをクリアできたことなんてほとんどありません。


それでもとにかくライブはしたいし、場数を踏んで経験を積みたいと思っていたので毎回頑張ってノルマを払ってました。


集客ゼロ人の日も山ほどあったし、月に6本ライブがあって全部集客ゼロなんて時もありましたね。


仮に2000円×10枚ノルマで動員がゼロだとすると、帰りに黙って2万円を払って帰るわけです。


(黙ってどころかもちろんコテンパンに怒られることもありますけど)


それを月に6回繰り返した場合は1カ月で12万円です。


働きながら生活費のほとんどをライブに費やしていたと思うと、よくやれていたなぁと思います。


でも僕にとってはそれが当たり前というか、ライブを始めたころからのスタンダードなルールだったので、不思議と嫌だなと思ったことはあまりないし、「ライブをするって大変なんだな、もっと頑張らないと」って思っていました。


あとはやっぱり人それぞれのモチベーションや考え方というか、ライブをするしないは僕自身で選べるわけなので、僕は「それでもやりたい」を選んだってだけですね。



で、そんなノルマ制度がゆるやかに廃止になっていった背景が僕にはあまりよく分かっていないので、あくまでも想像でしかないんですが、ノルマがあることによって出演するアーティストが減っていったことや、そもそも最初からノルマがないバー的な場所が増えて、アーティストがそちらに流れ始めたことが原因なのかなと個人的には思います。間違っていたらすみません。


バー的な規模が小さい場所だと、家賃や人件費、設備費もろもろのかかり方もライブハウスとは違うでしょうし、僕みたいな無名のアーティストの場合だとそもそもお客さんを呼べないので、広々としたライブハウスでスカスカの中でライブをするよりは、小さなバーを満員にできたほうが見栄えもいいし精神的にも楽です。


同じ30人の来場者数でもキャパ300人の中の30人はガラガラに見えるけれど、キャパ30人のバーだとソールドアウトですからね。


ただこれも活動するアーティスト側に選ぶ自由はあると思っているので、それでもライブハウスでやりたいと思うならやればいいし、そうじゃないならやらなくていい。


僕個人としてはどちらにも違った魅力があると思っているし、なによりライブハウスにもバーにも、好きな場所には長く続いてほしいと思っているので、これまでもこれからもどちらも大切にしていきたいと思っています。


で、ノルマ制の是非は置いといて、こういった「ノルマがあるなら出演したくない」という若手アーティストの意見に対して必ずといって出る意見が「俺らの若いころはノルマがあって当たり前だった」とか「いまの若いもんは向上心が〜」みたいな意見です。


すごく悪い言い方をするとこういうのにはもう耳を傾ける必要がないと思います。


今は今、昔は昔ですし、僕自身も「昔は大変だったけど今の若い子たちは恵まれている」なんてこれっぽっちも思わないし、そもそも"あの頃"の話をいくら引き合いに出しても、未来が変わることはきっとありません。


「だったらノルマ制度を廃止すれば気が済むのか?」っていう極端な話でもなくて、要はお互いの落とし所をどこに持っていくのかが重要なのかなと。


その落とし所について前向きに取り組んでいったり、改革しようとするライブハウスもすごく増えてきていて、みんな色んなアイデアでライブハウスを盛り上げようとしてくれています。


そんな中で先日、こんなコンセプトのイベント告知を目にしました。


チケット代1500円のイベントで、5名集客できればノルマや参加費は一切なし。
6名から1500円をフルバック。
ただし、5名集客をクリアできなかった場合は参加費として15000円を頂きます。


落としどころのアイデアとしてとても工夫が見られる部分は素晴らしいのですが、正直に言うと頭の中に?が浮かんでしまいました。


これについて「実質5枚ノルマと変わらないじゃん!」という反論というか意見も見られたんですが、よく考えたらそれ以上にハードルが高いんですよね。


たとえばシンプルに5枚ノルマだとすると、金額だけで7500円分です。


そうなると仮に3名集客した場合
7500-1500×3=3000
となるのでアーティスト側の負担は3000円です。


ですがこのシステムで3名集客した場合
15000-1500×3=10500
となるのでアーティスト側の負担は10500円になってしまいます。


それだと普通に5枚ノルマのほうがマシだと思ってしまうし、これは想像と仮定でしかないですが、通常のノルマが10枚だとすると、5人呼べた時点で参加費がなくなる訳だから、差額の5人分をライブハウス側が負担というか、譲歩してくれているようにも受け取れますね。

こちらのライブハウスの普段のノルマやバック率を知らないので、偉そうな事は言えないですし、ライブハウスとして必死にアーティスト側に歩み寄って考えて下さってるんだろうなとは思うんですが、このシステムで出演したいと思うアーティストは意外と少ないんじゃないかなと。。。



逆に僕が知っているなかで、とても素敵なシステムを採用されているなぁという場所もあって、「ノルマはなし、ただし集客ゼロの場合は機材費(参加費)として3000円を支払う」というもので、そのライブハウスのチケット代は基本2000円、ドリンク代を入れても600円なんです。


つまり、友達や彼女や家族に頼み込んで、チケット代とドリンク代を自分で肩代わりしたとしても、ゼロ人で3000円を支払うよりは数百円ですが負担が少ないわけです。


だから「そこまでしてでも一人は呼ぼうね!」っていうメッセージだと勝手に解釈しているんですが、これってすごく大切なことで、ライブをする上でそこに居てくれる人がゼロか1かでは全然アーティストにとっての意味合いややる気も違ってくると思います。


ただここは比較的小規模な会場なので、規模の広いライブハウスだと3000円という額も焼け石に水だとは思いますし、そのまんま採用すれば上手くいくような簡単なものではないですが、ひとつのアイデアとして個人的に素敵だなと思います。


また「ノルマをなしにしてしまうと、アーティスト側が集客努力をしなくなる。」という意見も非常によく聞きます。


これについては半分正解で半分間違いだと僕は思っています。


たしかにそうなってしまうアーティストも多いかもしれないし、というか実際に居るでしょうし、もしかしたら僕だってノルマがないとサボってしまうかも知れません。(サボったことはないですけど)


でもじゃあノルマなしのライブで当日蓋を開けてみて動員がゼロだったとして、その子が当日までに精一杯の努力をしてきたのか、それとも本当にただサボっていただけなのか、何を基準に判断するんでしょうか。


ツイッターの告知回数? 当日のライブのクオリティ?


判断の基準が曖昧すぎて僕にはよく分かりません。


もちろんノルマがないからと言って集客努力をしないなんてことはあってはならないし、そんなアーティストはそもそもきっと長続きしないし、信頼関係の上でノルマなしにしたのにお客さんがゼロだったら、ライブハウス側としては金銭的にも痛いし気持ち的にも悲しいですけどね。


なので

ノルマがある→アーティストが出演したがらない。
ノルマがない→集客努力をしないから利益にならない。

の無限のスパイラルを永久に繰り返し続けているのかなと思うし、このループのせいでいつまでも議論が終わらないのかなと思います。


でも結局のところはノルマがあろうが無かろうが、努力をしてる人はするし、努力をしない人はしないです。


ただこれを結論にしてしまうと何の解決にもならないので、アーティスト側もライブハウス側も理想の落とし所を模索しているんでしょう。



ここからは超個人的な意見になってしまうのですが、僕だったらどうするかな、僕だったらどうしてほしいかなと考えたときに


"数百円でもいいから一枚目からバックを返す"


ってことを落とし所にできないのかなとずっと思ってました。


ノルマがある時点で出演したがらない流れはもう仕方ないと割り切ってしまう意見ですが、かといってノルマなしにしても、払うものがない代わりにもらえるものもないのであれば、そりゃ集客努力をしようという気持ちにもなりにくいと思うんです。


頑張っても頑張らなくても変わらないのであれば、人は頑張ったりしません。


じゃあ仮に2000円のチケット代で、その内500円をアーティストに集客1人目から還元したとする。


もしその子が5人呼んでくれれば、ライブハウス側には7500円が入り、アーティスト側には2500円が入る。


1人しか呼べなかったとしても片道交通費くらいは持って帰れるし、ライブハウス側も1500円と1人分のドリンク代は入る。


しかも頑張ったら頑張った分だけ増えていくなら、たぶん何もないよりはよっぽど努力をするんじゃないでしょうか。


そりゃノルマをきちんと設定するより利益は下がるでしょうし、これも信頼関係あっての話で賭けみたいなものですが、ノルマなしにして努力もしなくて、蓋開けたらゼロ人、なんていう負のスパイラルよりはマシなのではないかなと。


(今回はライブハウスとアーティストに焦点を当てているので、お客さんが使ってくださるチケット代やドリンク代の話は一旦切り離して書いています。すみません。)


あとはこの「1人目から」ってのがけっこう重要だと個人的には思っていて、よくあるシステムなのが「○人目から○○○円バック」っていう方式。


例えばこれが「6人目から」となっていた場合で考えると、集客0〜5人だと1円ももらえないわけです。


そうなった場合、頑張って6人以上呼べる子はいいんですけど、どうやっても無理な場合だとどうしても「0でも5でも変わらないなら0でいいや」って考えが頭をよぎってしまうと思うんですよね。


だから視点そのものを「払わないといけないもの」から「頑張ればもらえるもの」に変えていくことはできないのかなぁと。


その「頑張ればちゃんと報酬をもらえる」っていう体験や感覚が、アーティストのモチベーションや集客努力につながっていくんではないかなと思います。


僕はライブハウスを経営したこともなければ、それがどんなに大変かも分かっていないのに、こんなに偉そうなことを書いてしまっています。


「そんな簡単な問題じゃない」
「それが上手くいけば誰も苦労はしない」


と言われてしまえばそれまでなんですが、僕はライブハウスが大好きですし、ずっとライブをするために長く続けていってほしいので、一意見として書いてみました。


無名のアーティストがこんな記事を載せたところで、影響力もなければ議論にもならないかもしれませんが、いろんな方のいろんな意見を聞いてみたいなぁとも思っています。


非常に長い文章でしたが最後まで読んでくださってありがとうございました。



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