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マネージャー編最終回   「至福の瞬間」

 皆さんは今まで生きてきた中で、忘れられない瞬間ってありますか?私の忘れられない瞬間をご紹介して「マネージャー編」終了となります。

期待のシーズン


 その瞬間は、バスケットボールコートの上で起こったのではありません。なぜなら、試合後の思いがけない瞬間にそれは訪れたからです。

 1998年度のシーズン。
このシーズンは準備が充実した「期待のシーズン」でした。

ベテランが成熟期を迎え、廃部したチームから日本代表選手を移籍で獲得、元NBAの外国籍選手も2年目を迎えてチームにとけ込み、さらに2名新たに補強、王者奪回に向けて盤石な体制で臨んだシーズンでした。

シーズンに入り、期待通り順調に勝利を重ね、お正月の天皇杯(全日本総合選手権大会)を迎えました。

スーパーカンガルーズは順当に勝ち進み、準決勝でNKKとの対戦を迎えました。

前評判は五分五分、お互い気合十分。

しかし、対戦するNKKは残念なことに、このシーズン限りの休部が決定していました。

この伝統チームの最後になる天皇杯の戦いを目に焼き付けようと観客が大勢詰めかけ、東京代々木第二体育館は満員御礼、異様な雰囲気に包まれていました。

NKKとの不思議な試合

 試合は一進一退。

スーパーカンガルーズが終始押し気味に試合を進めますが、最後の最後で、NKKに押し切られ、63-69で負けてしまいました。

試合はあっという間に終わり、まるで自分たちの試合ではないような、負けた感覚のない不思議な試合でした。

この日は昼間の試合で、当然、決勝戦まで残る予定でいたので、ホテルは確保しています。選手の疲労も考え、慌てて大阪に帰るよりも、もう一泊して次の日の朝に帰阪する事にしました。

私は急いでホテルへ戻り、新幹線の変更と宿泊の手配をしたり、今後のスケジュールを想定しながら、領収書や書類をまとめていました。

ホテルの各部屋はベッドメイキングも終わり、そこが渋谷のど真ん中とは思えないほど、暖かで静まりかえっていました。

そのうち、選手がポツポツと帰ってきたのでしょう、廊下に足音がしたり、クーラーボックスをひきずる音、ジャージのすれる音、話し声が聞こえだしました。

いつもでしたら、選手は、応援に来てくれた知人と食事をしたりと、それぞれプライベート行動をするんですが、なぜかこの日はぽつりぽつりと皆ホテルに帰ってきました。

穏やかな空気が流れる

 1時間ぐらい経った頃でしょうか。

選手の部屋から話し声が聞こえ、その人数はだんだん増えている様子でした。

そのうち、大きな笑い声なども聞こえ、中には外国人選手もいる様子もうかがえました。

選手たちが一つの部屋に集まり、缶ビールでも飲んで談笑していることは予想できました。

私は、ペンを止めその会話に耳を澄ませました。

優勝を期待された大きな大会に負けた直後でしたが、聞こえてくるのは、選手たちの楽しそうな笑い声でした。

その瞬間、急に時が止まったような感覚に陥りました。激闘に負けた数時間後、チームが一つに集まって談笑する雰囲気。

私は、この穏やかな空気にとても幸せな気持ちになり、涙が溢れそうになりました。

その時に「あ、このチームはいいチームだ」「このチームの一員で幸せだ」と感じたのでした。

選手の楽しそうな空間を「聞く」

 優勝の瞬間とは違った、ゆったりとした感覚。

後にも先にも、あのような感覚は体験したことがありません。

忙しいながらも精力的に仕事がこなせている時、ふと「充実しているな」と感じることがありましたが、それに近い感覚です。

優勝した瞬間とは真逆の静かに空気が流れるような感覚です。

私はその部屋に加わろうかと思いましたが、すぐにためらい、やめました。

マネージャーは、チームというピラミッドの周りで綻びが無いかチェックする係で、演者ではありません。

優勝した時の選手の笑顔を「見る」ことと同じように、選手の楽しそうな空間を「聞く」ことに至福な気持ちになることができました。

このような体験をさせてもらいながら、私のマネージャーの旅は、その次のシーズンで終わりました。

思い返せば若くて生意気な私を、我慢強く指導し、見守り、励ましていただいた皆さんとの出会いが全てでありました。

出会いこそがマネージャーを続けられたエネルギーであり、人生の財産であり、今現在の生きる糧であります。

多くの失礼や、不義理ばかりで後悔の念は絶えませんが、それゆえに今後の出会いを大事にしていこうと決意の念を込めて、「マネージャー編」を閉めさせていただきます。


最後までお付き合いいただき、心より感謝しています。世界中の人々を失意のどん底に陥れたコロナ禍も出口が見え始めています。「努力の先に見えるのは〝希望の光〟」ぜひ、近い将来、皆さんにお会いして感想をお聞きしたいです。

皆様の益々のご活躍を。


☆次回からは、お待たせしました!「バーテンダー編」をお送りします!
「マネージャー編」をご拝読いただいていた皆様もぜひ、暇つぶしにでも読んで笑っていただけるとありがたいです。

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